2021/07/06

『お姫さまとゴブリンの物語』

お姫さまとゴブリンの物語 (岩波少年文庫 108)

『お姫さまとゴブリンの物語』
ジョージ・マクドナルド
脇 明子 訳
岩波少年文庫

『かるいお姫さま』に続いてジョージ・マクドナルド作品。1872年の出版なので約150年前の作品です。
ファンタジーの古典らしからぬ表紙は竹宮恵子によるもの。妹は「『お姫さまとゴブリンの物語』なのに表紙にゴブリンいない」と言ってましたが、表紙の2人はアイリーン姫と鉱夫の少年カーディ。この2人が8歳と12歳なのに、賢くて勇気があってとやや出来過ぎの少年少女。対するゴブリンは「ぞっとするほどいやらしい」とか「こっけい」「みっともない」と表現されてます。地上から追い出され洞窟に住んでいるゴブリンたちは、地上の人間を憎んでおり、ゴブリンと人間たちの戦いがストーリーの中心です。
桃太郎の鬼は異人のメタファーではないかという説がありますが、このゴブリンにもそれと似たような人種差別的なものを感じてしまって私はあまり素直に読めませんでした。
(何らかの悪を象徴するものが必要だったんだろうとは思いますし、150年前という時代も考慮すべきではありますが。)
お姫さまの大きいおばあさまがお姫さまよりずっと年をとっているはずなのに若く美しい外見であるとか、ほかの人には見えないらしいとか、彼女の台詞がいろいろ哲学的だったりとかして、決して簡単に読める物語ではなかったりもします。
お姫さまの母親である女王さまは亡くなっているらしいけれど、おばあさまの正体についても詳しくは語られず。
お姫さまはお姫さまらしい行動をするからこそ本当のお姫さまなのだとか、正しい行いをするカーディは鉱夫であると同時に王子さまでもあるとか、ここらへんもなかなか。
作者のジョージ・マクドナルドは、ルイス・キャロルの友人であり、『ナルニア国ものがたり』のC.S.ルイスや『指輪物語』のトールキンにも影響を与えたと解説に書かれています。ゴブリンはもともとヨーロッパの伝承のようですが、この物語がなかったら『指輪物語』にドアーフは登場していなかったのかもしれません。