2024/03/10

『台所のおと みそっかす』

台所のおと みそっかす (岩波少年文庫)

『台所のおと みそっかす』
幸田 文
青木奈緒 編
岩波少年文庫

『カーディとお姫さまの物語』がなかなか難解だったので、軽いものが読みたくなり手にとってみた小説が広告のような軽さで物足りなく、今度はしっかりしたものが読みたくなって幸田文にしてみました。(イマココというわけ)
幸田文の孫・青木奈緒のセレクトによる作品集。
随筆『木』の樹木の話から始まり、『婦人公論』の取材らしい『都会の静脈』は下水のマンホールを訪ねる話で驚くが「突撃体験!」みたいな感じがなく、下水道の描写すら地に足のついた文章で感心してしまう。

「角を消した面取りみたいな、柔らかい音」
「病院の食べもののあのがさつさ」「ざっぱくない食べもの」
「いらひどい」「胸がはららいだ」
言葉の使い方、選び方がおもしろい。
幸田文の長編小説『流れる』、『おとうと』は昔読んだことがあるのですが、本作に収録されている『台所のおと』はこれが短編なのかと思う切れ味。
さらっと読めるような『祝辞』にもなかなか深い夫婦の機微があって、いったいどんな人生送ったらこんな小説が書けるのかと思う。
『あとみよそわか』も昔読んだことがあるのですが、ハタキをかけるのも廊下を水拭きするにも美しい形と作法がある幸田露伴イズム。

「はたらいている時に未熟な形をするようなやつは、気どったって澄ましたって見る人が見りゃ問題にゃならん」
「水は恐ろしいものだから、根性のぬるいやつには水は使えない」
「学校には音楽の時間があるだろう、いい声で唄うばかりが能じゃない。いやな音をなくすことも大事なのだ。」
今では幸田露伴の娘というより、娘の方が名を知られた存在ですが、露伴から「庭で色のあるものを言ってごらん」という課題を出されるという話が『父・こんなこと』にあり、この人の文章力、観察眼は英才教育なんだなあと思ったことがあります。
「おしゃれはひっきょう(結局)心づかいの深さだ」という言葉に背筋が伸びる思い。