2023/12/23

『井上ひさしの大連―写真と地図で見る満州』

井上ひさしの大連―写真と地図で見る満州 (ショトル・ミュージアム)

『井上ひさしの大連―写真と地図で見る満州』
井上ひさし、こまつ座 編集
小学館

11月に観たこまつ座公演『連鎖街のひとびと』の復習として読みました。
井上ひさしが『連鎖街のひとびと』の脚本を書くにあたって集めた地図、絵葉書、写真などの資料をもとに大連の歴史、市街の風景、満州に日本人が見た夢を解説。
ロシアが建設した町ダルニーが大連になったとか、パリをモデルに多心放射線状道路が造られ、西洋建築が並ぶヨーロッパ的な街だったとか、連鎖街とはアーケード街だとか、今さら初めて知ることも多かったです。
写真で見る当時の大連の美しいこと。当時の日本人にとっては本当に夢の街だったのでしょう。
井上ひさしによる手描きの大連地図も掲載。『連鎖街のひとびと』は連鎖街の今西ホテルの半地下が舞台ですが、実際の連鎖街にホテルはなかった模様。
劇中、今西ホテルのオーナーが何度もソ連軍の元に通うのですが、中心街からの距離感がなんとなくわかったり、中国人街から中国人孤児でホテルのボーイ長の陳さんの立場に想いを馳せたりしました。
敗戦後についてはサラッと書かれていますが、ソ連軍侵攻が1945年8月。このとき大連にいた日本人は20万人。『連鎖街のひとびと』のラストがこの状況ですが、最初の引揚船が出航するのが1946年12月。一年以上を占領下で難民として暮らすことになるわけです。
舞台を観たときも思ったけど、この状況をコメディとして描くことの重さを感じました。




『ぼくの姉キはパイロット!』BGMリスト

『ぼくの姉キはパイロット!』で使用されたスターダスト・レビューの曲リストをまとめてみました。
イントロやメロディしか使われていないものも多いので抜けや間違いがありましたらご指摘ください。

『第1便 愛と青春の旅立ち』        
Lonely ≠ Story 空港
踊りあかそう VIPホテルラウンジ
と・つ・ぜ・ん Fall In Love 国立駅
危険なJealous Night Top Gun
月影のスローダンス 公園
心の中のFollow Wind 滑走路
今夜だけきっと 屋根

『第2便 キスなんてゆるせない』          
トワイライト・アヴェニュー
トワイライト・アヴェニュー 土手
村長さんの娘 学校グラウンド
もう一度ハーバーライト Top Gun
Boy Meets Girl VIPホテルラウンジ
永遠への誓い-Eternity- 学校
心の中のFollow Wind セスナ
今夜だけきっと 星野家

『第3便 おねがい教官!危ない恋に走らないで!』          
Sweet Memories VIPホテルラウンジ
Bad Moonに誘われて Top Gun
Uki Uki Midnight 目覚まし
狙われた夜 Top Gun
Lonely ≠ Story 星野家
さよならの足音 Top Gun
村長さんの娘 星野家
Boy Meets Girl サンフランシスコ
What A Nite! Top Gun
永遠への誓い-Eternity- ホテル入口
今夜だけきっと 星野家

『第4便 青春してるじゃん…コイツ!』        
永遠への誓い-Eternity- 空港入口
Midnight Rainbow Top Gun
Be Your No.1 星野家
涙のエピローグ 星野家
It's A Party! Top Gun~新宿
1%の物語 Top Gun
トワイライト・アヴェニュー グラウンド
今夜だけきっと 星野家前

『第5便 あいつの運命さ』        
素敵なWink Cat 食堂
Baby,It's You VIPホテルラウンジ
Boy Meets Girl VIPホテルラウンジ
危険なJealous Night 星野家
夕暮れのスケッチ 教室
心の中のFollow Wind Top Gun
君のために… 星野家
さよならの足音 Top Gun
1%の物語 教室

『最終便 空が好きだから』        
夕暮れのスケッチ 学校
What A Nite! Top Gun
Be-Bop Doo Wop 星野家
トワイライト・アヴェニュー
君のために… VIPホテルラウンジ
狙われた夜 Top Gun
One More Time VIPホテルラウンジ
夢伝説 滑走路


当時、キーボードの三谷泰弘さんが『ぼくの姉キはパイロット!』におけるスタレビの曲の使い方をほめていたと記憶しているので、スタレビは曲提供のみで選曲や編集はドラマスタッフによるものだと思うのですが、セレクトが本当にいいですよね。

たとえば『月影のスローダンス』のイントロと隼人くんのシャドーボクシングをあわせていたり、この曲は「夜の公園で二人だけで踊ろう」という内容なので公園でジョギングデートする翔子ちゃんと隼人くんにもぴったりなんですよね。

スタレビ初期の曲は懐かしのアメリカン・ポップス調のものもけっこうあるので、VIPホテルラウンジやTop GunなどのBGMに多用されています。

ほとんどエンディングテーマ曲のように使われている『今夜だけきっと』。最終便の『夢伝説』も印象的でしたが、なんといっても第5便でほとんどフルで使われている『1%の物語』は当時見ていたときも使われている場面とあわせてとても衝撃的でした。

スターダスト・レビューofficial YouTube Channelでは初期の曲も視聴できるので、『ぼくの姉キはパイロット!』を見てBGMが気になった方はぜひこちらも聴いてみてください。





2023/12/22

『ぼくの姉キはパイロット!』

 これも男闘呼組武道館ライブの効果だと思いますがTBSチャンネルが『ぼくの姉キはパイロット!』を放送してくれました。このためにスカパー!契約したよ。

1987年放送。浅野温子、男闘呼組主演、パイロット養成学校を舞台にした青春コメディ。

「番組中、一部に不適切な表現がありますが、作品の時代背景及び作品のオリジナリティを考慮し、そのままお送りします。」
と冒頭にテロップがでますが、パイロットが操縦席でタバコ吸ってたり、女口説いたり、今見ると「不適切な表現」ばかりで笑えます。
でも当時は気にせず見てたんだからそういう時代だったんですよね。そもそも女性教官に生徒が迫ったりするのだってどうなの。そのまま放送してくれたTBSには本当に感謝。
(さすがに山口百恵さんの自宅前をジョギングするシーンはカットされている模様。)

音楽にスターダスト・レビューが使われているのでスタレビファンの友人に薦められて再放送を見てました。私が男闘呼組を認識した最初のドラマです。

男闘呼組はまだデビュー前。当たり前だけどみんな若い、みんなかわいい。

「自分の出たドラマは見てない」「最終回ってそういう話だった?」とラジオで言っていた昭次さん。
耕陽さんは「(昭次は)いい演技するんだけどなあ」と言っていたけど、たぶん彼本人は「演じてる」という感覚がないんでしょうね。その自然体が様になるというのはもう天賦の才。当時の女の子たちが星野隼人に恋をしたのも納得です。

ちなみに隼人くんのガールフレンド役浅野愛子ちゃんもかわいくて好きでした。

「ショーケンの再来」と言われた成田昭次に嫉妬したと語っていた和也さん。こちらは北島マヤに対する姫川亜弓のような努力の人。
生真面目で運動音痴でおとなしい霧谷文彦くんの役作りがすごい。
その後、『DAYBREAK』でデビューしたとき、センターでオラオラ歌ってる人が霧谷くんと同一人物だとはなかなか思えず、びっくりした記憶があります。
当時はキャラづけのためにこんなダサい役をやらされてかわいそうにと思ってたんですが、今見ると文彦くん、めっちゃかわいいし、メガネ外すとやっぱりかっこいいし、当時の私がいかに子供で見る目がなかったか。

そして浅野温子がやっぱりいい。
『抱きしめたい!』が1988年放送なのでブレイク寸前のころ。屋根の上でお酒もって泣きわめいている姿がかっこいいなんてこの人だから。
まだトレンディドラマという言葉もないころですが、陣内孝則、松本伊代をめぐる三角関係や、みんな教官好きになっちゃう恋のドタバタとか、コメディエンヌ浅野温子によって成り立ってます。

スタレビは曲提供だけで音楽編集はスタッフによるものだと思いますが、『今夜だけきっと』、『1%の物語』、『夢伝説』の場面は印象的でよく覚えてます。
『月影のスローダンス』の使い方が好きで当時、イントロが流れるとシャドーボクシングしてました。
『ぼくの姉キはパイロット!』BGMリストまとめました。

昭和のドラマらしいドタバタコメディなんですが、最終回ではなんだかんだ彼らの成長に胸が熱くなります。


2023/12/13

『ポアロのクリスマス』

ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

『ポアロのクリスマス』
アガサ・クリスティー
村上啓夫 訳
ハヤカワ文庫

ポアロシリーズ17巻目。1939年の作品。
少し順番が飛びますが季節的にこちらにしてみました。
(このシリーズは再読も多いので、なるべく新訳で読もうと思っているのですが、2023年11月に川副智子による新訳版が出ていることにあとから気がつきました。)
章のタイトルが「第一部 十二月二十二日」、「第二部 十二月二十三日」となっている時点でもうワクワク。
クリスマスに一族が集まることでそれまでは隠されていた感情が表面化し、引き起こされる人間模様というクリスティーお得意のストーリー展開。
今回は若くて美しい娘さんより、美人ではないけれど上品で賢くて根性のある奥様方が素敵でした。
そして紳士たちは食堂でポートワイン、婦人たちは客間に移ってコーヒー、というのがいいよね。このわざわざ部屋を移動するという感じ。
残念ながらクリスマスは殺人が起こるのでクリスマスディナーは出てきません。
「あたしが本で読んだイギリスのクリスマスはとても陽気で楽しげなんですもの。焼いた干しブドウを食べたり、すばらしいプラム・プティングをつくったり、それからユール・ロックなんてものもあって……」
今回も犯人はまったくわかりませんでしたが(そもそもわかるように書かれていない)、登場人物たちがそれぞれの葛藤を胸に秘めながら交わす会話というのがもうおもしろくて一気読みしてしまいました。
『クリスマス・プティングの冒険』も読みたいなあ。

2023/12/05

『アンの青春』

アンの青春 (文春文庫)

『アンの青春』
モンゴメリ
松本侑子 訳 
文春文庫

松本侑子新訳版のアンシリーズ第2巻。
原題は『Anne of Avonlea』。
第2巻『アンの青春』と第3巻『アンの愛情』の邦題は逆の方があっていたんじゃないかと昔から思っていて、順番が混乱するんですが、こちらはアンがアヴォンリーで新米教師として過ごす2年間の物語。
自分メモ的に整理しておくと
アンがグリーン・ゲイブルズに来たのが11歳のとき。
アヴォンリーの学校を経て15歳のときにシャーロットタウンのクイーン学院に進学。
クイーン学院は教師になるための師範学校で、通常は2年かけて教員免許をとるところ、アンとギルバートは成績優秀のため1年コースで卒業。
マシューの死去にともない大学進学をあきらめ、16歳でアヴォンリーの教師になる。(←イマココ)
さらに自分メモ的にそれぞれの学校の先生
・アヴォンリー
アン→ジェーン・アンドリューズ
・ホワイト・サンズ
ギルバート・ブライス
・カーモディ
プリシラ・グラント→ルビー・ギリス
ホワイト・サンズやカーモディがアヴォンリーからどれくらい離れているのか不明ですが、週末や夏休みには帰省できるけど毎日通うのは難しい距離のようです。
『大草原の小さな家』のローラも15歳で教師になってます。アンが教師になったとき、アンが教える上級生たちはちょっと前まで一緒に勉強していた子供たちなんですよね。モンゴメリ自身は19歳で教師になっていますがみんな若い。
新しい隣人ハリソンさんのスキャンダル、アンクル・エイブが預言した大嵐など、村岡花子版の外伝短編集『アンの友達』、『アンをめぐる人々』のようなアヴォンリー村物語的な側面もあります。
そして村岡花子版でも何度も読んでますがミス・ラヴェンダーがやっぱり素敵だな。30代くらいのイメージだったけど45歳なのか。
村岡花子版では「山彦荘」、松本侑子版では「こだま荘」の石の家の名前が「エコー・ロッジ」だと初めて知る。
基本的なストーリーは村岡花子版でおなじみなんですが、花の名前とか細かい自然描写が松本侑子版の方がわかりやすく頭の中で風景を再現しやすい気がします。
へスター・グレイの庭は黄色と白の水仙に埋もれてるんだとか。
子供の頃はラヴェンダーの花や香りが今ほど具体的にイメージできてなかったというのもあるかもしれません。
あとリンドおばさんとマリラの名言多し。
「マリラ、失敗したらどうしよう!」
「たった一日で、大失敗なんかできないよ」
「マリラ、私、頭が変なように見える?」
「いいや、いつもほどじゃないよ」
今回も解説が100ページほどあります。細かい引用なんかはそこまでチェックしなくてもと思うものもありますが、当時は暗誦が普通に行なわれており、欧米小説では聖書やシェイクスピア、古典の引用が一般的だったという解説は納得。
ポール・アーヴィング、双子のデイヴィとドーラ、アンソニー・パイ、いずれも幼くして親を亡くしている子供たちで、モンゴメリ自身が反映されているのではという指摘もなるほどと思いました。

2023/12/01

『追想ジャーニー』

2022年公開。高橋和也出演作。
※ネタバレ含みます。

18歳の高校生と48歳のおじさんが過去の分岐点をふりかえる追想の旅に出る物語。

脚本、演出、演技ともに舞台色が強いので映画ならではの場面がもう少し欲しかったところではありますが、高橋和也目当ての私としては表情や目の演技をアップで堪能できるのは嬉しいところ。

ほとんどのシーンが舞台上で展開されるのは予算の都合というのもあるだろうけれど、この舞台が「時空がアレしてる」ところでそれ以外の部屋とか病室なんかは過去と未来の現実なのかなと解釈。

過去に戻って未来を変えるストーリーは最近だと『東京卍リベンジャーズ』あたりでも見られる定番ものですが、途中から役割が逆転して過去の自分が未来の自分を変えていくのがおもしろい。

高橋和也は少年の瞳をしたおじさんなので高校生と並んでも違和感なし。無理を承知でいうと18歳の文也を若き日の高橋一也に演じてほしかった。人生なめてる感じの藤原大祐くんも良かったけど、これ2人のどちらにも容貌よせてないんですよね。

脚本も全体的にゆるいというか余白が多く、お母さんとの確執はもっと描いておくべきなんじゃないかとか、なぜ彼は売れない役者を続けているのか、このジャーニー自体が夢なのかなんなのか設定があいまいだと思ったりもするのだけど、あまりそれをやると語るに落ちるからなあ。

そもそも過去の分岐点を振り返るというのはSF設定なしでもできることなので、ラストは人違いではなく、過去の母への態度を改めたことで未来の母との関係が修復された結果なのではないかと勝手に解釈しました。

脚本に余白があるぶん、ここらへんは見る人、見るタイミングや感情によって解釈がいくらでも変わりそう。

ひまり役の伊礼姫奈がちょっといいなと思ったら『推し武道』の舞菜ちゃんであり『大奥』の祥子姫だった。役によって全然雰囲気変わるのね。18歳のくるみ役、髙石あかりも要チェック。