『韓国文学の中心にあるもの』
斎藤真理子
イースト・プレス
『少年が来る』で光州事件についてあまりに知らなさすぎたので、こちらでお勉強を。
『82年生まれ、キム・ジヨン』が書かれる背景となった江南女性殺人事件、韓国におけるフェミニズム文学に始まり、セウォル号、IMF危機、光州事件、朝鮮戦争へ、韓国現代史を遡りながら文学との関わりを解説している。
著者の斎藤真理子さんは韓国文学を読む人なら知らない人はいない翻訳者で、日本における韓国文学ブーム立役者のひとり。ハン・ガンの文章の美しさは原文はもちろん翻訳の力も大きいのだと思う。本書でも、非常に重く、複雑な韓国の歴史を読みやすい文章で解説してくれている。
梨泰院の事件のときも感じたことだが、韓国で起こる事件は突発的なものではなく、そこに社会の矛盾だったり、歪みみたいなものが関係している。少なくとも韓国の人たちは何か事件が起きたとき、それを運の悪い人に起きた他人事とはとらえていない。
本書が時系列ではなく、遡る形で現代史を追っているのも象徴的で、現代の韓国は朝鮮戦争、さらに日本の占領時代から続く死者の蓄積の上に成り立っているという意識がどこかにある。韓国文学は直接に歴史を扱っていない作品でもそれを忘れていない。BTSが歌詞の中に光州事件を象徴する「518」を入れてくるように、現代の若者たちにとっても遠い昔の話ではないのだろう。
朝鮮戦争は日本の占領とは無関係ではありえないのに、朝鮮特需という後ろめたさもあり、日本はその後に続く韓国の困難な歴史から目を逸らしてきたという部分も納得。しかし、本当に私たちは隣の国に対して無関心すぎたのではないか。
韓国文学になぜ惹かれるのか、韓国文学のもつ力の源泉とは何かがよくわかる一冊です。
図書館で借りて読みましたが、ブックリストだけでも手元に欲しいので新たに購入しました。