2022/08/24

『ハローサマー、グッドバイ』

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

『ハローサマー、グッドバイ』
マイクル・コーニイ
山岸真 訳
河出文庫

夏に読みたいSFということで選びました。

夏の休暇に訪れた港町。政府高官の息子と宿屋の娘の恋、近づいてくる粘流(グルーム)、戦争、政府と町民たちの対立などなど。

冒頭には「これは恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説であり、さらにもっとほかの多くのものでもある。」とあるように盛り沢山なのですが、正直、恋愛小説としてもSF小説としてもなんとなく微妙な読後感。

まあ最大の難点はヒロインであるブラウンアイズがかわいいだけでまったく魅力的でないところ。少し内気で無垢な少女が主人公に対してだけは積極的って、昔のエロゲーのヒロインかと。他の女の子にあからさまにヤキモチやくとかもうざいわ〜。

SF部分はなかなかおもしろいんですが、世界設定がわかりづらく、前半は夏の田舎の港町みたいな雰囲気で読みました。

後半がちょっとアンナ・カヴァンの『氷』に似ているなと思ったんですが、どちらも元サンリオSF文庫からの復刊。『氷』の原書が1967年、『ハローサマー、グッドバイ』が1975年。冷戦時代なので世界の終わりがストーリーになるのかなと。

恋と政治、戦争などを経て、ひと夏のうちに成長していく主人公というのはおもしろいので、ここがもうちょっと欲しかったところです。

「この夏のあと、ぼくたちはだれひとり、前と同じじゃなくなっているだろう……それがこわいって思うこともある。すごくたくさんのものを、すごい早さで失ってるような感じがして。」

2022/08/21

『わたしが先生の「ロリータ」だったころ』

わたしが先生の「ロリータ」だったころ 愛に見せかけた支配について

『わたしが先生の「ロリータ」だったころ
愛に見せかけた支配について』
アリソン・ウッド
左右社

『テヘランでロリータを読む』は1980〜90年代、イラン・イスラーム政権下で女子大生たちが『ロリータ』を読みますが、こちらは2000年代、英文学の教師が女子高生に『ロリータ』を渡します。
「この本は、欲望であり、憧れであり、逃れがたい危険だ。」
26歳の教師と17歳の生徒の関係は年齢差だけでいえば、37歳のハンバートと12歳のロリータよりはるかにまともそうに見えますが、そこにあるのが「愛」ではなく「支配」だというのが問題。
この本に限らず、相手に『ロリータ』を読ませることで年齢差のある恋愛を正当化する男性の話をどこかで目にしたことがあり、それはやはり相当に気持ち悪い。
アリソンが易々と教師に飲み込まれていってしまう前半はイライラしてしまうんですが、客観的に見れば単なるエロオヤジみたいな教師も、不安定で助けを求めていた少女にとっては王子様なんですよね。
「愛ではなく支配だった」という関係性は、年齢差のあるなしに限らず、対象が少女でなくても起こりうるんじゃないかと思います。
ハンバートは「信頼できない語り手」であり、『ロリータ』は「愛の物語ではなく、レイプと妄執の物語である」と気がついた終盤の『ロリータ』論が秀逸です。
『ロリータ』に隠されたハンバートの真実、それを利用した(あるいはそもそも自分の都合のいいようにしか読解していなかった)教師の罠、『ロリータ』を再読することで過去の自分から解き放たれていくアリソン。
『ロリータ』という作品が読む側によってこんなにもいろんな面を見せることに驚きます。
「たしかに『ロリータ』は美しい。でも、同時におぞましくもある。そのふたつは両立しうる。」