『北風のうしろの国』
ジョージ・マクドナルド
脇明子 訳
岩波少年文庫
今年の目標のひとつとして放置していた「岩波少年文庫を読む」を再開しようというのがありまして、手始めに冬っぽいタイトルのこちらを選んでみました。
まずタイトルが素敵です。原題は『At the Back of the North Wind』、1871年の作品。
コバルト文庫に小林弘利『星空のむこうの国』というのがありますが、あきらかに本作に影響を受けたものでしょう。
「北風のうしろの国」を旅するファンタジーかと思いきや、ファンタジーというよりはSF?宗教?のような設定もあり、「北風のうしろの国」がでてくるのはダイヤモンド少年が語る一部のみ、ストーリーの大半はロンドンで暮らす少年一家の物語で、これも雇い主が破産したり、ロンドンの貧しい子どもたちの話になったりとあっちにいったりこっちにいったり。
解説によると、1868年から69年にかけて『Good Words for the Young』という雑誌に長期連載されたもので「しっかりとした構想のもとに書かれたとは言い難い部分もあります」とのことです。
ダイヤモンド少年が文字通り天使のような純粋無垢さでいい子すぎるし(解説にもありますが『みどりのゆび』のチト少年っぽい)、道徳的で説教臭い話もある一方で、全体的に哲学的で難しかったです。
岩波少年文庫は小学生向けと中学生向けで番号がわかれていますが、こちらは「小学5・6年以上」となっていました。
おそらく死のメタファーである北風、そして天国である「北風のうしろの国」。でもこうやってまとめちゃうとつまんないんだよなー。
「どうしてそれがわかるの?」
「あんたのほうこそ、自分にはどうすればわかるんだろう、ってたずねなさいよ。」
「いま教えてもらったから、わかったよ。」
「そうね。でも、教えてもらってわかった気になっても、わかったことにはならないでしょ?」
(上巻100ページ)
「これ、すてきじゃない、母さん?」と、ダイヤモンドは言った。
「ええ、きれいね」と、母さんは答えた。
「何か意味があると思うんだけど」と、ダイヤモンドは言った。
「母さんにわかるのは、さっぱりわからないってことだけよ」と、母さんが言った。
(下巻29ページ)
御者として馬小屋に住んでいるダイヤモンド一家、雇い主であるコールマンさん、泥濘を掃いてチップをもらっている少女ナニーなど、当時のロンドンの経済格差のある風景も示唆的に描かれています。
どうしてあたいは、泥んなかじゃなく、夕日のなかで暮らせないんだろう? どうして夕日は、いつだってあんなに遠いんだろう? どうして、あたいたちのおんぼろな通りには、全然来てくんないんだろう?
(下巻184ページ)
作中に出てくる『ヒノヒカリ姫』の物語は『かるいお姫さま』に少し似ているし、ダイヤモンドが「小さなお姫様とゴブリンの王子のお話」を読んでいたりするんですが、出版順としては
『かるいお姫さま』(The Light Princess, 1864)
『北風のうしろの国』(At the Back of the North Wind, 1871)
『お姫様とゴブリンの物語』(The Princess and the Goblin, 1873)
となります。
本作執筆中にマクドナルド一家が住んでいてダイヤモンド一家のモデルにしたと思われる「かくれが(The Retreat)」はその後、ウィリアム・モリスが購入し、現在は「ケルムスコット・ハウス」として公開されているそうです。先日、『アーツ・アンド・クラフツとデザイン』展を見たばかりなのでこのつながりにびっくり。