2024/04/08

『ABC殺人事件』

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

『ABC殺人事件』
アガサ・クリスティー
堀内静子 訳
早川書房

ポアロシリーズ11作目。1936年の作品。
原題はThe ABC Murders。

中高生くらいのころに、アガサ・クリスティーの小説をとりあえず有名なのから読んでみようと『オリエント急行』、『アクロイド』、『ABC』と読んだので、どの出版社のどの訳かはおぼえてませんが読んだことはあります。
でもそのころは構成がおもしろいと思ったもののストーリーにはとくにひかれなかった印象があります。今、読んでみると、なんだよ、やっぱりおもしろいじゃないかと思うんですが、まあ、中学生だったから。

マシュー・プリチャードのまえがきにもあるように、屋敷の中など小さなコミュニティー内で起こる殺人事件が多いアガサ・クリスティー作品の中で、アルファベット順の連続殺人という『ABC殺人事件』はかなり特異な作品です。

法月綸太郎の解説によるとこれは「ミッシング・リンク・テーマ」と呼ばれるパターンで、『ABC殺人事件』から「ABCパターン」とも呼ばれるそうです。

「1990年代にブームになったシリアル・キラー小説にも影響を与えている」という解説を読んで、ああ、なるほど、構成だけみると現代的な推理小説っぽいという印象はそこからきているのかと思いました。ただ、これが狂気の殺人者による無差別殺人といったサイコ・スリラーでないところがアガサ・クリスティーのおもしろさ。

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「死のまっただなかで、わたしたちは生きているんですよ、ヘイスティングズ……殺人はね、わたしがたびたび気づいたところによれば、縁結びには最適なんです」

アンドーヴァー、ベクスヒル、チャーストン、ドンカスター、ABC順に出てくる地名をGoogleマップで検索しながら読みましたが、だいたいロンドンから2時間くらいの場所です。

「デヴォンシャー・クリーム」というのが出てきて、なんだろう、このおいしそうな名前はと思ったら、クロテッドクリームをそえたスコーンのようです。クロテッドクリームの産地であるデボン州ではデヴォンシャー・クリーム、コーンウォール州ではコーニッシュクリームと呼ぶとか。

今回はヘイスティングズ登場なのでふたりのかけあいがあるのも楽しかったです。

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「つまらないことによく気がつく人ですね、あなたは、ポアロ。ほかの人の着ているものなんか、わたしはぜったいに気がつきませんよ」
「あなたはヌーディスト・クラブにでも入ればいいんです」