『ABC殺人事件』
アガサ・クリスティー
堀内静子 訳
アガサ・クリスティー
堀内静子 訳
早川書房
ポアロシリーズ11作目。1936年の作品。
原題はThe ABC Murders。
中高生くらいのころに、アガサ・クリスティーの小説をとりあえず有名なのから読んでみようと『オリエント急行』、『アクロイド』、『ABC』と読んだので、どの出版社のどの訳かはおぼえてませんが読んだことはあります。
でもそのころは構成がおもしろいと思ったもののストーリーにはとくにひかれなかった印象があります。今、読んでみると、なんだよ、やっぱりおもしろいじゃないかと思うんですが、まあ、中学生だったから。
マシュー・プリチャードのまえがきにもあるように、屋敷の中など小さなコミュニティー内で起こる殺人事件が多いアガサ・クリスティー作品の中で、アルファベット順の連続殺人という『ABC殺人事件』はかなり特異な作品です。
法月綸太郎の解説によるとこれは「ミッシング・リンク・テーマ」と呼ばれるパターンで、『ABC殺人事件』から「ABCパターン」とも呼ばれるそうです。
「1990年代にブームになったシリアル・キラー小説にも影響を与えている」という解説を読んで、ああ、なるほど、構成だけみると現代的な推理小説っぽいという印象はそこからきているのかと思いました。ただ、これが狂気の殺人者による無差別殺人といったサイコ・スリラーでないところがアガサ・クリスティーのおもしろさ。
224
「死のまっただなかで、わたしたちは生きているんですよ、ヘイスティングズ……殺人はね、わたしがたびたび気づいたところによれば、縁結びには最適なんです」
アンドーヴァー、ベクスヒル、チャーストン、ドンカスター、ABC順に出てくる地名をGoogleマップで検索しながら読みましたが、だいたいロンドンから2時間くらいの場所です。
「デヴォンシャー・クリーム」というのが出てきて、なんだろう、このおいしそうな名前はと思ったら、クロテッドクリームをそえたスコーンのようです。クロテッドクリームの産地であるデボン州ではデヴォンシャー・クリーム、コーンウォール州ではコーニッシュクリームと呼ぶとか。
今回はヘイスティングズ登場なのでふたりのかけあいがあるのも楽しかったです。
229
「つまらないことによく気がつく人ですね、あなたは、ポアロ。ほかの人の着ているものなんか、わたしはぜったいに気がつきませんよ」
「あなたはヌーディスト・クラブにでも入ればいいんです」
以下、引用。
10
アガサ・クリスティーの作品ではよくあることだが、巧みにおおい隠されているものの、プロットはテーマのヴァリエーションであり、似たような社会的出来事や、娘二人と青年一人からなる三角関係のようなよくある状況や、殺しのアリバイづくりに必要な相棒との関係といったものがその中心となる。
18
以前、エルキュール・ポアロがきわめて芝居がかった態度でおしえてくれたことがあるが、犯罪の副産物としてロマンスが生まれることがあるのだ。
19
ポアロはロンドンで、食事や清掃などのサービスがついた最新式のフラットにおさまっていた。とくにこのフラットを選んだのは、あくまでも幾何学的な外観と均整のためだろう、とわたしは避難がましくポアロに言った(彼はその事実を認めた)。
「でも、この建物には左右対称のすばらしい心地よさがありますよ。そう思いませんか」
25
「その言葉を聞いたら誰だって、あなたがリッツ・ホテルでディナーを注文しているところだと思うでしょうね」
「ところが犯罪は注文することができない? たしかに」
33
「この時代のありとあらゆる有名な事件にかかわっておられる。列車の殺人、航空機内の殺人、上流社会の殺人──」
38
「あるいは、もちろん」わたしは言った。「毒薬もある──だが、それには専門知識が必要だ。さもなければ、闇にこだまするリヴォルヴァーの銃声。それに、美人がひとりかふたり──」
「栗色の髪のね」わが友人はつぶやいた。
93
「匿名の手紙というものは、男性よりも女性によって書かれることが多いのです。」
104
ポアロにたいする態度はやや慇懃無礼だった。若い者が年長者にたいするように一応は敬意を払っていたが──それがかなりわざとらしく、「パブリックスクール風」だった。
106
「そういうことではなく。そのう──きれいでしたか?」
「それについては何も聞いていません」
「あなたには重要に思えないのですね? でも、女性にとっては、いちばん重要なことなんですよ。そのことで、えてして女性の運命が決まるんです!」
111
もっぱらモーニング・コーヒーと五種類のティー(デヴォンシャー、ファームハウス、フルーツ、カールトン、プレーン)、それに婦人客用にスクランブル・エッグや小エビやマカロニ・グラタンなど、わずかばかりの軽い昼食を提供しているような店だった。
125
「死というものは、マドモワゼル、あいにく偏見をつくりだします。亡くなった人にたいして好意的な偏見です。」
「若い娘が死ぬと、そういうふうに言われることになります。彼女は明るかった。彼女はしあわせだった。彼女は気だてがよかった。悩みなど何もなかった。好ましくない交友関係はなかった。死者にたいしては、つねにとても寛大な態度がとられるものなのです。」
162
「あなたには平衡感覚ってものがないんです、ヘイスティングズ。きまった時間よりも早く列車がでるわけじゃないんですよ。それに服をだめにしたって、殺人を防ぐ役には立ちません」
187
「おれは戦争が好きじゃない」青年は言った。
カスト氏は青年のほうを向いた。
「わたしだって疫病や眠り病や飢餓や癌が好きじゃありません……それでもそういうことはやっぱり起こるんです!」
「戦争は防げるぜ」青年はきっぱりと言った。
189
彼は小さなテーブルにつき、ティーとデヴォンシャー・クリームを注文した……。
199
「干し草の山に針をさがすようなものであることは認めます──しかし干し草の山には針があるんです」
224
「わたしがイギリスではじめて手がけた事件を覚えていますか。わたしは愛しあっている二人を一緒にした──一人を殺人の咎で逮捕させるという単純な方法によって! それ以外の方法では成就しなかったでしょう! 死のまっただなかで、わたしたちは生きているんですよ、ヘイスティングズ……殺人はね、わたしがたびたび気づいたところによれば、縁結びには最適なんです」
229
「つまらないことによく気がつく人ですね、あなたは、ポアロ。ほかの人の着ているものなんか、わたしはぜったいに気がつきませんよ」
「あなたはヌーディスト・クラブにでも入ればいいんです」
349
「あのカールトン・ティーは、ひどいしろものでしたな!」
379
「犯人は拘置所にいて、いずれブロードムーアに送られることは間違いありません。」
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