2021/10/19

『ケルト 再生の思想』

ケルト 再生の思想――ハロウィンからの生命循環: ハロウィンからの生命循環 (ちくま新書)

『ケルト 再生の思想 ハロウィンからの生命循環』
鶴岡真弓
ちくま新書

ハロウィンってなんでカボチャなんだろう。メキシコの死者の日とも似てるよね、と思っていたところ、@ westmountainbooksさんがこちらを紹介していたので読んでみました。
ハロウィンはもともとケルトの祭サウィンが起源で、11月1日を境に「光の半年」から「闇の半年」へと移行し、前夜である10月31日には光と闇、あの世とこの世、生と死が混ざり合う、という冒頭からもうワクワク。
冬の祭サウィン(11月1日)から始まり、春の祭インボルク(2月1日)、夏の祭ベルティネ(5月1日)、秋の祭ルーナサ(8月1日)とケルトの4つの季節祭をとおして、一年のサイクルと循環する生命の思想が解説されていますが、「帰ってくる死者を供養する」のは日本のお盆と同じで、そのほか、お正月飾りやナマハゲやら日本とケルトの民間伝承に近いものがあるのがおもしろいです。
自然崇拝が根底にあり、農業を中心とした暦だから基本的な思想が似てくるのか、なんだかすごく共感できる。ケルトをとおして日本的な考え方を再発見します。
おもしろすぎて引用が長すぎますが、エンターテイメント化してしまったハロウィンの原点を知ることのできる良書です。

2021/10/18

『クララとお日さま』

クララとお日さま

『クララとお日さま』
カズオ・イシグロ
土屋政雄 訳
早川書房

ノーベル文学賞受賞後第一作ということで注目されたカズオ・イシグロ最新作。
読む前から「AIロボットと少女の友情」という前情報は否応なく流れてきたわけですが、今回の語り手クララがAIロボットであるという「説明」はクララからはされません。
AFという単語はでてくるものの、これが何の略なのかという説明ももちろんなく、おそらくartificial friend であり、この世界の子供たちが学校には通っておらず、オブロン端末で個人授業を受け、それを補完するための「友達」なのだろうと予想はつきます。
そもそも「信頼できない語り手」で知られるカズオ・イシグロ作品なわけで、クララは信頼できないわけではないけれど、自分の目で見た断片的な情報しか伝えてくれないので、ジョジーの負っている障害、姉サリーの死因、「向上処置」とは何であるのか、わからないまま読み進めるのがちょっと疲れたりもしました。
(読み終わってから向上処置の副作用がサリーの死因であり、ジョジーの病気の原因だと気がつきました。これってわりと大きなポイントなんだけど説明なしなんだな。)
原題『Klara and the Sun』が『クララとお日さま』と訳されているように本作は児童文学的な装いをしており、クララがAIロボットであるのは、なにもSF的ディストピアを描くためではなく、純粋無垢な子供の視点からこの世界を見るという設定が重要だったのではと思います。
(『わたしを離さないで』のSF設定がストーリー以上に重視されるのがいつも不思議なんですが、本作のAIロボットや格差社会も世界観として必要な設定なだけでそこに物語の本質はないと思う。)
クララの視点の描き方がボックスで認識したり、人の形が立方体になったり、3DCG的なのはなんかわかる。
肖像画のあたりから急に不穏な話になってドキドキするんですが、その後の展開がファンタジーすぎて消化不良。どちらかというとバッドエンドルートとして肖像画展開のほうが見てみたかったです。人の心を演じることはできるのか、そのときクララの心はどこに行くのか。
クララが純粋無垢な瞳で見つめているのは人間の孤独。クララ自身は孤独ではないんでしょうか。
「たぶん、人は誰でもさびしがり屋なんです。少なくとも潜在的には」


2021/10/10

『ずっとお城で暮らしてる』

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

『ずっとお城で暮らしてる』
シャーリィ・ジャクスン
市田泉 訳
創元推理文庫

タイトルが素敵すぎて気になっていた一冊。
原題はWe have always lived in the castle。
ファンタジーなのかミステリーなのかホラーなのかも知らず読み始めましたが、「恐怖小説」というジャンル。ホラーと呼ぶよりしっくりする。
「村の人々は、ずっとあたしたちを憎んでいた。」という一文の破壊力。
なぜ村の人々がそこまでブラックウッド家を憎んでいるのか、6年前に本当は何が起こったのか。語り手であるメアリ・キャサリン(メリキャットという呼び名がめっちゃかわいい)は18歳にしては言動が幼すぎるのだが彼女の中では6年前から時間が止まっているのだろう。そもそもメリキャットは本当に存在するのか?コンスタンス姉さんは?
静かに崩壊していく感じに終始ゾクゾクして読みました。桜庭一樹の解説ではメリキャットの異常性が指摘されていてそれが普通の読み方だと思うけど、私はむしろ村の人々の悪意が怖かった。いちばん異常なのはコンスタンス姉さんではという指摘ももっとも。