2023/12/23

『井上ひさしの大連―写真と地図で見る満州』

井上ひさしの大連―写真と地図で見る満州 (ショトル・ミュージアム)

『井上ひさしの大連―写真と地図で見る満州』
井上ひさし、こまつ座 編集
小学館

11月に観たこまつ座公演『連鎖街のひとびと』の復習として読みました。
井上ひさしが『連鎖街のひとびと』の脚本を書くにあたって集めた地図、絵葉書、写真などの資料をもとに大連の歴史、市街の風景、満州に日本人が見た夢を解説。
ロシアが建設した町ダルニーが大連になったとか、パリをモデルに多心放射線状道路が造られ、西洋建築が並ぶヨーロッパ的な街だったとか、連鎖街とはアーケード街だとか、今さら初めて知ることも多かったです。
写真で見る当時の大連の美しいこと。当時の日本人にとっては本当に夢の街だったのでしょう。
井上ひさしによる手描きの大連地図も掲載。『連鎖街のひとびと』は連鎖街の今西ホテルの半地下が舞台ですが、実際の連鎖街にホテルはなかった模様。
劇中、今西ホテルのオーナーが何度もソ連軍の元に通うのですが、中心街からの距離感がなんとなくわかったり、中国人街から中国人孤児でホテルのボーイ長の陳さんの立場に想いを馳せたりしました。
敗戦後についてはサラッと書かれていますが、ソ連軍侵攻が1945年8月。このとき大連にいた日本人は20万人。『連鎖街のひとびと』のラストがこの状況ですが、最初の引揚船が出航するのが1946年12月。一年以上を占領下で難民として暮らすことになるわけです。
舞台を観たときも思ったけど、この状況をコメディとして描くことの重さを感じました。




『ぼくの姉キはパイロット!』BGMリスト

『ぼくの姉キはパイロット!』で使用されたスターダスト・レビューの曲リストをまとめてみました。
イントロやメロディしか使われていないものも多いので抜けや間違いがありましたらご指摘ください。

『第1便 愛と青春の旅立ち』        
Lonely ≠ Story 空港
踊りあかそう VIPホテルラウンジ
と・つ・ぜ・ん Fall In Love 国立駅
危険なJealous Night Top Gun
月影のスローダンス 公園
心の中のFollow Wind 滑走路
今夜だけきっと 屋根

『第2便 キスなんてゆるせない』          
トワイライト・アヴェニュー
トワイライト・アヴェニュー 土手
村長さんの娘 学校グラウンド
もう一度ハーバーライト Top Gun
Boy Meets Girl VIPホテルラウンジ
永遠への誓い-Eternity- 学校
心の中のFollow Wind セスナ
今夜だけきっと 星野家

『第3便 おねがい教官!危ない恋に走らないで!』          
Sweet Memories VIPホテルラウンジ
Bad Moonに誘われて Top Gun
Uki Uki Midnight 目覚まし
狙われた夜 Top Gun
Lonely ≠ Story 星野家
さよならの足音 Top Gun
村長さんの娘 星野家
Boy Meets Girl サンフランシスコ
What A Nite! Top Gun
永遠への誓い-Eternity- ホテル入口
今夜だけきっと 星野家

『第4便 青春してるじゃん…コイツ!』        
永遠への誓い-Eternity- 空港入口
Midnight Rainbow Top Gun
Be Your No.1 星野家
涙のエピローグ 星野家
It's A Party! Top Gun~新宿
1%の物語 Top Gun
トワイライト・アヴェニュー グラウンド
今夜だけきっと 星野家前

『第5便 あいつの運命さ』        
素敵なWink Cat 食堂
Baby,It's You VIPホテルラウンジ
Boy Meets Girl VIPホテルラウンジ
危険なJealous Night 星野家
夕暮れのスケッチ 教室
心の中のFollow Wind Top Gun
君のために… 星野家
さよならの足音 Top Gun
1%の物語 教室

『最終便 空が好きだから』        
夕暮れのスケッチ 学校
What A Nite! Top Gun
Be-Bop Doo Wop 星野家
トワイライト・アヴェニュー
君のために… VIPホテルラウンジ
狙われた夜 Top Gun
One More Time VIPホテルラウンジ
夢伝説 滑走路


当時、キーボードの三谷泰弘さんが『ぼくの姉キはパイロット!』におけるスタレビの曲の使い方をほめていたと記憶しているので、スタレビは曲提供のみで選曲や編集はドラマスタッフによるものだと思うのですが、セレクトが本当にいいですよね。

たとえば『月影のスローダンス』のイントロと隼人くんのシャドーボクシングをあわせていたり、この曲は「夜の公園で二人だけで踊ろう」という内容なので公園でジョギングデートする翔子ちゃんと隼人くんにもぴったりなんですよね。

スタレビ初期の曲は懐かしのアメリカン・ポップス調のものもけっこうあるので、VIPホテルラウンジやTop GunなどのBGMに多用されています。

ほとんどエンディングテーマ曲のように使われている『今夜だけきっと』。最終便の『夢伝説』も印象的でしたが、なんといっても第5便でほとんどフルで使われている『1%の物語』は当時見ていたときも使われている場面とあわせてとても衝撃的でした。

スターダスト・レビューofficial YouTube Channelでは初期の曲も視聴できるので、『ぼくの姉キはパイロット!』を見てBGMが気になった方はぜひこちらも聴いてみてください。





2023/12/22

『ぼくの姉キはパイロット!』

 これも男闘呼組武道館ライブの効果だと思いますがTBSチャンネルが『ぼくの姉キはパイロット!』を放送してくれました。このためにスカパー!契約したよ。

1987年放送。浅野温子、男闘呼組主演、パイロット養成学校を舞台にした青春コメディ。

「番組中、一部に不適切な表現がありますが、作品の時代背景及び作品のオリジナリティを考慮し、そのままお送りします。」
と冒頭にテロップがでますが、パイロットが操縦席でタバコ吸ってたり、女口説いたり、今見ると「不適切な表現」ばかりで笑えます。
でも当時は気にせず見てたんだからそういう時代だったんですよね。そもそも女性教官に生徒が迫ったりするのだってどうなの。そのまま放送してくれたTBSには本当に感謝。
(さすがに山口百恵さんの自宅前をジョギングするシーンはカットされている模様。)

音楽にスターダスト・レビューが使われているのでスタレビファンの友人に薦められて再放送を見てました。私が男闘呼組を認識した最初のドラマです。

男闘呼組はまだデビュー前。当たり前だけどみんな若い、みんなかわいい。

「自分の出たドラマは見てない」「最終回ってそういう話だった?」とラジオで言っていた昭次さん。
耕陽さんは「(昭次は)いい演技するんだけどなあ」と言っていたけど、たぶん彼本人は「演じてる」という感覚がないんでしょうね。その自然体が様になるというのはもう天賦の才。当時の女の子たちが星野隼人に恋をしたのも納得です。

ちなみに隼人くんのガールフレンド役浅野愛子ちゃんもかわいくて好きでした。

「ショーケンの再来」と言われた成田昭次に嫉妬したと語っていた和也さん。こちらは北島マヤに対する姫川亜弓のような努力の人。
生真面目で運動音痴でおとなしい霧谷文彦くんの役作りがすごい。
その後、『DAYBREAK』でデビューしたとき、センターでオラオラ歌ってる人が霧谷くんと同一人物だとはなかなか思えず、びっくりした記憶があります。
当時はキャラづけのためにこんなダサい役をやらされてかわいそうにと思ってたんですが、今見ると文彦くん、めっちゃかわいいし、メガネ外すとやっぱりかっこいいし、当時の私がいかに子供で見る目がなかったか。

そして浅野温子がやっぱりいい。
『抱きしめたい!』が1988年放送なのでブレイク寸前のころ。屋根の上でお酒もって泣きわめいている姿がかっこいいなんてこの人だから。
まだトレンディドラマという言葉もないころですが、陣内孝則、松本伊代をめぐる三角関係や、みんな教官好きになっちゃう恋のドタバタとか、コメディエンヌ浅野温子によって成り立ってます。

スタレビは曲提供だけで音楽編集はスタッフによるものだと思いますが、『今夜だけきっと』、『1%の物語』、『夢伝説』の場面は印象的でよく覚えてます。
『月影のスローダンス』の使い方が好きで当時、イントロが流れるとシャドーボクシングしてました。
『ぼくの姉キはパイロット!』BGMリストまとめました。

昭和のドラマらしいドタバタコメディなんですが、最終回ではなんだかんだ彼らの成長に胸が熱くなります。


2023/12/13

『ポアロのクリスマス』

ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

『ポアロのクリスマス』
アガサ・クリスティー
村上啓夫 訳
ハヤカワ文庫

ポアロシリーズ17巻目。1939年の作品。
少し順番が飛びますが季節的にこちらにしてみました。
(このシリーズは再読も多いので、なるべく新訳で読もうと思っているのですが、2023年11月に川副智子による新訳版が出ていることにあとから気がつきました。)
章のタイトルが「第一部 十二月二十二日」、「第二部 十二月二十三日」となっている時点でもうワクワク。
クリスマスに一族が集まることでそれまでは隠されていた感情が表面化し、引き起こされる人間模様というクリスティーお得意のストーリー展開。
今回は若くて美しい娘さんより、美人ではないけれど上品で賢くて根性のある奥様方が素敵でした。
そして紳士たちは食堂でポートワイン、婦人たちは客間に移ってコーヒー、というのがいいよね。このわざわざ部屋を移動するという感じ。
残念ながらクリスマスは殺人が起こるのでクリスマスディナーは出てきません。
「あたしが本で読んだイギリスのクリスマスはとても陽気で楽しげなんですもの。焼いた干しブドウを食べたり、すばらしいプラム・プティングをつくったり、それからユール・ロックなんてものもあって……」
今回も犯人はまったくわかりませんでしたが(そもそもわかるように書かれていない)、登場人物たちがそれぞれの葛藤を胸に秘めながら交わす会話というのがもうおもしろくて一気読みしてしまいました。
『クリスマス・プティングの冒険』も読みたいなあ。

2023/12/05

『アンの青春』

アンの青春 (文春文庫)

『アンの青春』
モンゴメリ
松本侑子 訳 
文春文庫

松本侑子新訳版のアンシリーズ第2巻。
原題は『Anne of Avonlea』。
第2巻『アンの青春』と第3巻『アンの愛情』の邦題は逆の方があっていたんじゃないかと昔から思っていて、順番が混乱するんですが、こちらはアンがアヴォンリーで新米教師として過ごす2年間の物語。
自分メモ的に整理しておくと
アンがグリーン・ゲイブルズに来たのが11歳のとき。
アヴォンリーの学校を経て15歳のときにシャーロットタウンのクイーン学院に進学。
クイーン学院は教師になるための師範学校で、通常は2年かけて教員免許をとるところ、アンとギルバートは成績優秀のため1年コースで卒業。
マシューの死去にともない大学進学をあきらめ、16歳でアヴォンリーの教師になる。(←イマココ)
さらに自分メモ的にそれぞれの学校の先生
・アヴォンリー
アン→ジェーン・アンドリューズ
・ホワイト・サンズ
ギルバート・ブライス
・カーモディ
プリシラ・グラント→ルビー・ギリス
ホワイト・サンズやカーモディがアヴォンリーからどれくらい離れているのか不明ですが、週末や夏休みには帰省できるけど毎日通うのは難しい距離のようです。
『大草原の小さな家』のローラも15歳で教師になってます。アンが教師になったとき、アンが教える上級生たちはちょっと前まで一緒に勉強していた子供たちなんですよね。モンゴメリ自身は19歳で教師になっていますがみんな若い。
新しい隣人ハリソンさんのスキャンダル、アンクル・エイブが預言した大嵐など、村岡花子版の外伝短編集『アンの友達』、『アンをめぐる人々』のようなアヴォンリー村物語的な側面もあります。
そして村岡花子版でも何度も読んでますがミス・ラヴェンダーがやっぱり素敵だな。30代くらいのイメージだったけど45歳なのか。
村岡花子版では「山彦荘」、松本侑子版では「こだま荘」の石の家の名前が「エコー・ロッジ」だと初めて知る。
基本的なストーリーは村岡花子版でおなじみなんですが、花の名前とか細かい自然描写が松本侑子版の方がわかりやすく頭の中で風景を再現しやすい気がします。
へスター・グレイの庭は黄色と白の水仙に埋もれてるんだとか。
子供の頃はラヴェンダーの花や香りが今ほど具体的にイメージできてなかったというのもあるかもしれません。
あとリンドおばさんとマリラの名言多し。
「マリラ、失敗したらどうしよう!」
「たった一日で、大失敗なんかできないよ」
「マリラ、私、頭が変なように見える?」
「いいや、いつもほどじゃないよ」
今回も解説が100ページほどあります。細かい引用なんかはそこまでチェックしなくてもと思うものもありますが、当時は暗誦が普通に行なわれており、欧米小説では聖書やシェイクスピア、古典の引用が一般的だったという解説は納得。
ポール・アーヴィング、双子のデイヴィとドーラ、アンソニー・パイ、いずれも幼くして親を亡くしている子供たちで、モンゴメリ自身が反映されているのではという指摘もなるほどと思いました。

2023/12/01

『追想ジャーニー』

2022年公開。高橋和也出演作。
※ネタバレ含みます。

18歳の高校生と48歳のおじさんが過去の分岐点をふりかえる追想の旅に出る物語。

脚本、演出、演技ともに舞台色が強いので映画ならではの場面がもう少し欲しかったところではありますが、高橋和也目当ての私としては表情や目の演技をアップで堪能できるのは嬉しいところ。

ほとんどのシーンが舞台上で展開されるのは予算の都合というのもあるだろうけれど、この舞台が「時空がアレしてる」ところでそれ以外の部屋とか病室なんかは過去と未来の現実なのかなと解釈。

過去に戻って未来を変えるストーリーは最近だと『東京卍リベンジャーズ』あたりでも見られる定番ものですが、途中から役割が逆転して過去の自分が未来の自分を変えていくのがおもしろい。

高橋和也は少年の瞳をしたおじさんなので高校生と並んでも違和感なし。無理を承知でいうと18歳の文也を若き日の高橋一也に演じてほしかった。人生なめてる感じの藤原大祐くんも良かったけど、これ2人のどちらにも容貌よせてないんですよね。

脚本も全体的にゆるいというか余白が多く、お母さんとの確執はもっと描いておくべきなんじゃないかとか、なぜ彼は売れない役者を続けているのか、このジャーニー自体が夢なのかなんなのか設定があいまいだと思ったりもするのだけど、あまりそれをやると語るに落ちるからなあ。

そもそも過去の分岐点を振り返るというのはSF設定なしでもできることなので、ラストは人違いではなく、過去の母への態度を改めたことで未来の母との関係が修復された結果なのではないかと勝手に解釈しました。

脚本に余白があるぶん、ここらへんは見る人、見るタイミングや感情によって解釈がいくらでも変わりそう。

ひまり役の伊礼姫奈がちょっといいなと思ったら『推し武道』の舞菜ちゃんであり『大奥』の祥子姫だった。役によって全然雰囲気変わるのね。18歳のくるみ役、髙石あかりも要チェック。


2023/11/20

『連鎖街のひとびと』

at 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

井上ひさし脚本によるこまつ座公演。
(そもそもこまつ座が井上ひさし作品だけを上演しているというのも今回初めて知りました。すみません。)

終戦直後の満州、大連が舞台。
今回は予習なし。歴史的にはなかなか難しい設定なのですが、セリフの中でわかりやすく状況が説明されていました。
全編喜劇で笑える作品なんだけど、彼らの状況はどん詰まりで、芝居をすることが希望であり、生きる支えでもあるんですね。

幕が上がって最初のセリフを言う前に和也さん演じる塩見さんが泣きそうな顔でふっと笑うんですが、もうその表情にやられます。
あとコーラスを歌い終わったときの顔がまた良かった。
こういう細かい表現も含めて丸ごとダイレクトに楽しめるのは舞台ならでは。

嫌な奴だった市川新太郎が芝居の稽古を通して変わっていって「シベリアでも芝居をするさ」ってセリフにグッときました。

あんなに書けなかった脚本がひとりの若者を救うためには書けるんだなあというのもおもしろい。和也さんが一彦役だった初演も見てみたかった。

モリエールとチェーホフはさすがにわからないけど、ギリシャ悲劇とか高田馬場とか演劇のパロディが詰め込まれている構成も楽しかった。

こまつ座だけに年配の落ち着いたお客様も多かったです。
トークショーのときにお隣りになったおばさまは「お話がおもしろいのでこまつ座は何度も見に来てる」そうで、私が初めてだと言うと「どなたかお目当ての方が?」と聞かれたので正直に「高橋和也さんの舞台が見たくて」と答えました。
ラフなセーターに着替えて登場した和也さんのナチュラルなかっこよさに私が息を飲んでいると、おばさまが「かっこいいですね」とささやいてくれました。
「でしょでしょ」という気分になって(何様)この日これがいちばん嬉しかったのです。


2023/11/18

『五十八歳、山の家で猫と暮らす』

五十八歳、山の家で猫と暮らす

『五十八歳、山の家で猫と暮らす』
平野恵理子
亜紀書房

平野恵理子さんの名前はweb記事で見かけて「小淵沢の山荘に住んでいるイラストレーターさん」くらいの認識はありました。
2冊めのエッセイのタイトルが『六十一歳、免許をとって山暮らし』。勝手に親近感が増してこちらから読んでみました。
最初の章が「虫の章」、次が「雪の章」に「寒さの章」。山荘に暮らすデメリットから始まっているのがおもしろい。「自然に囲まれた素敵な暮らし」じゃないのが良い。
小淵沢のあたりは標高も高く(小淵沢駅が886m)、積雪はそれほどではなくても冬はかなり寒いはず。恵理子さんが住んでいる別荘地帯は住民も少なく、近くに大きなスーパーなどもなく駅に出るにも登り下りが結構大変なあたりだと思われます。
そんな山の中にわざわざなぜ住んでいるのか。
「そこで何してるんですか?」と問われ、「とくに何をしているわけではなく、ただ場所をかえて相変わらず暮らしている毎日なんです」と答える恵理子さん。
「どちらが本当の暮らしなのか。いや、本当の暮らしとはなんなのか。」
「モラトリアム」と言っているのもなんだかホッとしました。50代でもモラトリアムでいいのか。
「どこに引っ越しても最初の2年はアウェイ感がぬぐえない」というのも新参者には心強い。
富士見高原病院や松本などの名前にも親近感。
おそらく恵理子さんが雪掻きスコップを買ったホームセンターはここではないかとあたりをつけて私も行ってみたりしました(ストーカー⁉︎)
まえがきで免許を取得したら「ヒラノ、ライフが変わるぜ」と友人に言われたと書かれていて、2冊めのエッセイとともに、私もそれを期待したいです。


2023/11/15

『蕨ケ丘物語』

蕨ケ丘物語 (コバルト文庫)

『蕨ケ丘物語』
氷室冴子
コバルト文庫

図書館でやっていた古本市で見つけた拾い物。
氷室冴子、1984年の作品。
北海道の田舎町、蕨ヶ丘の名家、権藤家の姉妹たち、大奥様である小梅おばあちゃんの物語。
当時何度か読んでいるし、山内直実によるコミック版も読んでるので懐かしく再読しました。
「頭がピーマン」とか「蛍光芳香ペン」とか、ボーイフレンドの顔を「ひと昔前の寺尾聰」と評したり、時代だなあ。
氷室冴子ってこういう「田舎町の名家のお嬢様」みたいな世界観をつくるのがほんとにうまかったんだなとあらためて思う。一種のファンタジーだよね。
『クララ白書』を再読したときに妹とこの『蕨ヶ丘物語』の話も出て、「おばあちゃんが『舞踏会の手帖』をするのをよくおぼえている」と言ってたんだけど、今読んでもこの話がいちばんおもしろい。
あとがきで氷室冴子が
「小梅おばあちゃんなんて、あれは理想そのものだな。
あれはきっと、五十年後の私の姿じゃないかしらんなんて、ひとりで悦に入ってるんです。そう、思いません?」
と書いていて、ちょっとしんみりする。
巻末のコバルトシリーズ目録には田中雅美、久美沙織、新井素子ら当時のおなじみのメンバーのほか
佐藤愛子『青春はいじわる』
南英男『ペパーミント・ラブ』
片岡義男『こちらは雪だと彼女に伝えてくれ』
アーシュラ・K・ル・グイン『ふたり物語』
風見潤・編『海外ロマンチックSF傑作選 たんぽぽ娘』
などが並んでいてラインナップの豊富さにびっくりします。

2023/11/02

『人斬り以蔵』

人斬り以蔵 (新潮文庫)

『人斬り以蔵』
司馬遼太郎
新潮文庫

一ノ関に行くときに時代小説かつ短編集ということで選んでみました。
(一ノ関だけに『義経』というのも考えたけど上下巻だったので断念。)
『鬼謀の人』大村益次郎
『人斬り以蔵』岡田以蔵
『割って、城を』古田織部
『言い触らし団右衛門』塙直之
『美濃浪人』所郁太郎
『売ろう物語』後藤基次
戦国時代や幕末の有名無名の志士たちを描いた短編集。
私は日本史の中でも戦国時代、幕末は特に苦手なこともあり、岡田以蔵すら知りませんでしたが、人物造形や出来事などは司馬遼太郎が作り上げたものだと思われるので史実はあまり関係ない。
才覚がありながら時代のタイミングがあわず、歴史の中に消えていった人々をあえて選んでいるような気がします。
大村益次郎は靖国に銅像があるのでなんとなく日中日露戦争の頃の人のイメージでしたが戊辰戦争でしたね。
癖のある登場人物が多いなか、普通の人が歴史に立ち会ってしまった感のある『おお、大砲』がいちばんおもしろかったかな。

2023/10/27

『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』

『テイラー・スウィフト: THE ERAS TOUR』
at TOHOシネマズ 新宿

アメリカで記録的大ヒットとなっているテイラー・スウィフトのライブ映画。

本当は来年2月の来日公演に行きたかったのですが、一番安いステージサイド席で1万5千、1階席で3万という外タレ価格にビビっているうちにソールドアウトしました。
(全米ツアーのチケット代平均が3万くらいなので日本公演はこれでも安いんですよね。)

2000円という特別料金、週末だけの上映というのもアメリカとほぼ同じ。テイラー・スウィフト側がライブ映画の上映をいかにコントロールしているかということですね。

なるべく大きなスクリーンで、音のいいところでとTCX、DOLBY ATMOS上映回にしましたが、これが大正解でした。
ライブが撮影されたロサンゼルスのSoFiスタジアムのキャパは7万人。映像を見る限り9割の観客席からは豆粒のようなテイラー本人とスクリーンの彼女しか見えません。おそらくライブ会場よりも音、映像とも格段にいい条件で見ているはずです。
(残り1割の恵まれた席は1階ステージ前方ですがここの観客がみんなスマホを掲げて撮影をしていて、せっかくいい席にいるんだからその目で見なよと思いました。)

この上映回は「発声OK」回でもあったのでうるさいのかなとちょっと心配してたんですが、手を振ったり、拍手したり、リズムとったりできるのでむしろ楽しかった。
(この音響とスクリーンで男闘呼組の武道館ライブ上映してほしいと思いました。)

テイラー・スウィフトの歌ってプロムだなと思います。プロムクイーンみたいな曲もありますが、どちらかというとパーティーの隅であこがれの人を見つめている女の子が共感できるような歌。

私がよく聞いていたのは『Red』の頃なのでこの「era」からの曲がやっぱり一番盛り上がりました。あと『blank space』ね。

スタジアムでのライブが映えるように派手なスクリーン映像や大規模なセット、バックダンサーやコーラスも登場しますが、テイラーひとりでギターやピアノの弾き語りする曲も会場中が沸いていてアーティストとしての彼女のすごさを感じました。

2023/10/26

『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』

 『尺には尺を』『終わりよければすべてよし』
at 新国立劇場

シェイクスピア、ダークコメディ交互上演を観てきました。

別々の作品ですがどちらもセクハラ、パワハラ、不誠実な男性たちに対し、女性たちが結託して一矢を報いるという「ベッド・トリック」を用いた構成で、これを同じ役者、ふたつセットで観るとより楽しめるというのも納得。

しかし「一矢を報いる」と言っても、ひとりは純潔を守り、もうひとりは身代わりになることで夫を手に入れるという、それで本当に幸せなのかというシェイクスピア時代の女性たち。

純潔を守ろうとするイザベラ、ダイアナ役がソニンちゃん。夫を手に入れようとするマリアナ、ヘレナ役が中嶋朋子。『尺尺』でキーパーソンとなるのがイザベラで、『終わりよければ』ではヘレナというのもおもしろい。

シェイクスピアの戯曲を読んだときから楽しみにしていたアンジェロ(岡本健一)。正義と欲望の狭間で苦悩し、セクハラするオカケン、最高でした。イザベラを見る目つきがだんだん変わっていったり、「この女、何を言いだすんだ、やべえ」ってなってるときの表情とか、舞台ならではの近さで堪能しました。

アンジェロってすごく人間味のある役なので後半でただの不誠実な男になってしまうのがもったいない。どうにかならなかったのかシェイクスピア。

戯曲の段階ではいちばん納得のいかなかった『尺尺』のラスト。舞台ではアレンジされていてちゃんとダークコメディになっていて笑いました。裁く側が裁かれる側と同じ罪を犯すのはアンジェロだけじゃない。実は権力者がいちばんのクズじゃないかというオチ。

『終わりよければ』のクズ男バートラム。ヘレナはこんな男のどこがいいのかと思うんだけど浦井さんが演じることで「顔なんだな」と納得しちゃうチャラ男ぶり。

Xで見かけたポストでは学校の観劇で来ていたと思われる女子中学生が「バートラム、かっこいいと思ったけど嫌な奴だった。あの人が改心しないと『終わりよければすべてよし』じゃないよね」と話していたとか。ちゃんと観てますね〜。

また戯曲ではとくにおもしろいと思えなかった狂言回しの場面。特に『終わりよければ』のペーローレスが舞台でみるとすごくおもしろかった。

やっぱりシェイクスピアは舞台で、生きた台詞で見てこそだなあ。このチームでまたシェイクスピア公演があったらぜひ見に行きたいです。

関連Link
『尺には尺を』
『終わりよければすべてよし』


2023/10/25

『白鍵と黒鍵の間に』

『白鍵と黒鍵の間に』
at テアトル新宿

高橋和也のヘンタイ三木さんが予想以上にかわいかった。

プレミア上映会で「80年代はああいう人いたんですよね、この人、大丈夫かなっていう人が。最近はそういう人が生きられない時代なのか見なくなった」と語っていたように、バブルの余波でフラフラと生きていた三木さんのようなおじさんたちは今どうしているのかな。
お調子者なんだけどどこか寂しそうでY子のように気にかけずにはいられない。
ヘラヘラとマラカス振っているところがお気に入り。

池松壮亮くんの一人二役による南と博が交錯する一夜という構成はすごくおもしろかったんだけど、ビルの谷間のゴミ溜めシーンは抽象的すぎかな。
「過去と未来の間」「現実と幻想の間」「白鍵と黒鍵の間」なんとでも解釈できるんだけど、解釈を必要とするところが惜しい。

それに対し、存在感だけで軽々と時空を超えてしまう洞口依子母さんがさすがでした。ラストですべてもっていった『地獄の警備員』を思い出しました。

彼女が『シティロード』に書いていた映画評がすごく好きだったんだけど、Xのツイート(ポストっていうのか)があいかわらずの切れ味で嬉しくなりました。

久しぶりに映画館で映画を見たという気分にさせてくれる映画でした。

演奏シーンがあるのでなるべく音のいいところでと思い「odessa EDITION上映」のテアトル新宿で見たのですが、こういう映画を上映し続けてくれるのがテアトル新宿というのもまた嬉しかったです。

2023/10/21

『街と山のあいだ』

街と山のあいだ

『街と山のあいだ』
若菜晃子
アノニマ・スタジオ

若菜晃子さんは私的には『murren』の人という印象が強く、この本もB&Bでつねに売れている本というのと素敵な装丁で記憶していたのですがちゃんと読むのは初めて。
なんというか地に足がついた落ちついた文章のエッセイは急いで読むのはもったいなく、一日数ページくらいのテンポで読んでいたので読了に時間がかかりました。
私の親は合コンの代わりに男女で登山をするような世代なので子供時代には家族旅行といえば山登りにつきあわされていたものの、その反動なのか私個人は特に山好きでもなく、わざわざ山に登る人の気がしれないという感じなのですが、これはきっと走る人の気持ちが走らない人にはわからないのと同じようなものなのでしょう。
「一緒に山に行く相手とは話さなくてもいい」「一緒に『山に行く』という行為が、すでにもう話をしているのと同じ意味をもっている」とか「あまりに美しくなごやかな山だったので、また行きたいような気もするが、もう行かなくてもいいような気もする」とか、おそらく「山の人」たちが読んだら共感しまくるのであろう文章がつづられています。
「山行(さんこう)」とか「山座同定(さんざどうてい)」という言葉を初めて知りました。
インスタで「山座同定」と入力したら「山座同定できない人と繋がりたい」というタグがあって笑いました。
本文中にも出てくるけれど「山の人」は自慢話が好き(な人が結構いる)。「あの山は○○山であっちに見えるのが」って語られるのが苦手な人もいるんだろうなあ。
元編集者としては、登山雑誌(『山と渓谷』と思われる)のガイドを作るために地図にトレペをかけたりする作業や、山頂で日の出を見て下山した足で編集部に戻り校了を前に呆然とする気持ちなどに勝手に共感しました。

2023/10/09

『三幕の殺人』

三幕の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

『三幕の殺人』
アガサ・クリスティー
長野きよみ 訳
ハヤカワ文庫

ポアロシリーズ9作目。1935年の作品。
タイトルの通り「第一幕」「第二幕」「第三幕」と舞台のような章立てになっており、最初のページには劇場のプログラムのように
〈演出〉
チャールズ・カートライト
〈演出助手〉
サータスウェイト
ハーミオン・リットン・ゴア
〈衣装〉
アンブロジン商会
〈照明〉
エルキュール・ポアロ
と書かれている。
物語を進行するのは、元俳優チャールズ、演劇パトロンのサータスウェイト、若い娘リットン・ゴアの3人で、殺人事件の調査をしたり、聞き込みをするのもこの3人。物語の3分の2くらいまでポアロはほとんど登場せず、完全な脇役。
三人称視点の文章がややわかりづらく、チャールズとサータスウェイトもキャラ的に区別がつきにくいので、今、誰の視点で物語が語られてるのか判別しにくい。これはある意味アンフェアな構成。
54歳のチャールズと、20代前半のエッグのラブロマンスは若いころの私なら「キモっ」と思ったんでしょうけど、今は人によってはそのくらいの歳の差カップルもありえるでしょうと思えるようになりました。(男闘呼組みたいにイケオジな54歳もいるし、チャールズは元俳優のハンサムで金持ちだし、夢中になる若い女の子がいてもおかしくない設定。)
それよりもチャールズの秘書ミス・ミルレーに対する描写がひどい。
「驚くほど不美人で長身の女」とか「あの手合いの女性には、そもそも母親などいるものか。発電機からいつのまにやら発生したに決まっている」、「あれはとても顔と呼べる代物ではない」、「ぼくは自分の秘書には、とびきりの不器量を選ぶことにしている」、「ヴァイオレットとは!ミス・ミルレーにはひどく不似合いな名前だ、と、チャールズは思った。」
……あんまりじゃないですか。
第一幕のチャールズの別荘があるのがコーンウォールのルーマス地方、第二幕の現場がヨークシャー、ポアロたちが休暇に訪れているのがモンテカルロ、そしてロンドンにも家があったり、ホテル・リッツに滞在していたり、みなさんどれだけ金持ちなんだ。
貧しい上流婦人らしいレディ・メアリーにしても「ドレスデンのティー・カップ」に「色あせたチンツ」の居間ですよ。
ポアロが自分の過去について語っているのも興味深く、金持ちになって毎日が休暇なのに「楽しくない」と言っているのがなかなか意味深。
以下はモンテカルロでポアロが聞いた親子の会話ですが、私的には殺人事件よりもこの場面が衝撃的でした。
「マミー、何かすることないの?」イギリス人の子供がいった。
「いいこと」母親はたしなめるようにいった。「外国に来て、こんなに気持ちいい日向ぼっこができるなんてすてきでしょう?」
「うん、でも何もすることがないんだもん」
「駆けまわるなりして、遊んでなさい。海でも見にいったら」
「海をみてきたわ、マミー。次は何をすればいいの?」


2023/10/07

『イグアナの娘』

 『ルーズヴェルト・ゲーム』を見ているときにTVerで配信されているのをみつけて歓喜しました。1996年の放送時、リアルタイムで見ていた大好きなドラマです。

娘を愛することのできない母と母から愛されない娘。萩尾望都の原作はなかなか重いテーマなのですが、テレビドラマはだいぶファンタジーになっていて基本設定以外はほとんどドラマオリジナルのストーリー。脚本は岡田惠和。

なにより主演の菅野美穂がかわいい。美人というよりは地味な顔立ちで暗い女の子を演じてるのですが「私なんてイグアナなのよ」と彼女が涙すると「あなたがイグアナなら私はゾウガメ⁈」と思いながら見ておりました。

菅野美穂(当時だと『エコエコアザラク』)と友人役の佐藤仁美(『バウンス ko GALS』)、この2人の演技がドラマをレベルアップしています。

そのほか『渚のシンドバッド』の岡田義徳、『水の中の八月』の小嶺麗奈、家庭教師はどこかで見たことあると思ったら『シコふんじゃった。』の弟くん宝井誠明。当時の日本映画注目の新人たちですね。
(小嶺麗奈はすごく好きだったのでその後の波瀾万丈が気の毒である。)

妹役が榎本加奈子、父親が草刈正雄、母親が川島なお美となんとも美しい一家。これで自分がイグアナだったらたしかに相当辛い。

あとわざとリアルではなくかわいいぬいぐるみみたいにデフォルメしているイグアナの造形がほとんどギャグですね。
(そこ突っ込むところじゃないってわかってるけど、菅野美穂がかわいく髪を結っていたりすると、鏡を見てもイグアナなのにどうやってスタイリングするんだと思ってました。)

「イグアナ」というのは母が娘にかけた呪縛で、実際には菅野美穂の顔をしたかわいい女の子なので、彼女が恋や友情をとおしてその呪縛から解き放たれていく様を優しく見守ることができるわけですが、現実には容姿に強いコンプレックスを持っていたり、毒親による呪縛から簡単に抜け出ることができない事情を抱えている子もいるわけで、今見るとドラマの展開は甘すぎるところも多々感じます。

草刈正雄のパパはとってもかっこいいのだけど、妻と娘の両方とも愛するあまり、結局、両方とも救えていない。今だったら奥さんをカウンセリングに連れて行く案件だし、母と娘はわかりあう努力をするより距離をおいたほうがたぶんいい。

「母親が娘を愛するのは当たり前」「家族なんだからわかりあえるはず」という時代だったのでこのテーマをゴールデンタイムのテレビで描いただけでも画期的だったといえるかもしれません。

昔は「母から愛されない娘」に涙したけど、今だと「娘を愛することのできない母」の苦しみも少しわかる気がします。

第3話でリカと信子が遊びに行く高原がまだブームだったころの清里。
第5話の遊園地は今はなき横浜ドリームランド。
第10話で家族旅行に行くのが軽井沢ホテルプレストンコート。湖は軽井沢じゃなくて嬬恋のバラギ湖だそうです。

2023/09/24

『菜穂子・楡の家』

菜穂子・楡の家 (新潮文庫)

『菜穂子・楡の家』
堀辰雄
新潮文庫

『風立ちぬ』に続いて堀辰雄。
『風立ちぬ』で二人が出会ったのは軽井沢ですが、『菜穂子』ではその隣村の信濃追分が舞台。
菜穂子が療養に行くのは『風立ちぬ』と同じく富士見高原病院のようです。
ジブリの『風立ちぬ』ではヒロインの名前が菜穂子。
『楡の家』第一部が1934年
『菜穂子』が1941年
『楡の家』第二部が1941年
『ふるさとびと』が1943年
と長い間を経て書かれており、もっと大きい物語にする意図もあったようですが、全体的に未完の作品な感じがあります。
明、菜穂子、菜穂子の母、菜穂子の夫、およう、と人物が入れ替わりながら同じ出来事がそれぞれの視点から語られるという構成ですが、基本的には大きな事件が起こるわけでもなく、秋から冬にかけての寂しい別荘地や療養所でのそれぞれの孤独が綴られているといった印象でした。
おようが離縁された隣村のMホテル(『ふるさとびと』では蔦ホテル)って万平ホテルのことかな。最近また人気の出てきている軽井沢ですが、こちらもいつか行ってみたい。


2023/09/21

『終わりよければすべてよし』

終わりよければすべてよし (白水Uブックス (25))

『終わりよければすべてよし』
ウィリアム・シェイクスピア
小田島雄志 訳
白水Uブックス

10月に新国立劇場で行なわれるシェイクスピア、ダークコメディ交互上演の予習として読みました。
英文科だったのでシェイクスピアは『オセロー』、『冬物語』なんかを授業で読んでおり、わりと好きだったりします。実際読んでみるとどれも話の展開がおもしろいんですよね。
台詞に関しては原文は韻をふんでいたり比喩も多いのでなかなか難しい。これは役者さんが流暢に語ってくれてこそ耳にスッと入ってくるものなのでしょう。
原文はほとんど古文のようなもので現代英語ともだいぶ違う。小田島雄志さんの訳は掛け言葉や韻をダジャレのように訳していて、元の意味よりも読んだときに楽しめるようにだいぶ意訳していると思われます。
新国立劇場ではこの小田島訳が原作として使われるようですが、さすがにこのままだと舞台の台詞にはならないので(文字として読んで理解できても耳で聴くと理解しにくい台詞が結構ある)そこはまたいろいろ変更されるのかな。
『尺には尺を』、『終わりよければすべてよし』、どちらもシェイクスピアの問題作と言われるだけあって結末の展開が強引すぎるし、複雑な性格と言ってしまえば聞こえはいいけど捉えどころが難しい登場人物だったり、話自体は難解ではないけれど演出によってだいぶ印象が変わってきそうな物語です。
岡本健一が『尺には尺を』で演じるアンジェロは自分の正義と欲望の狭間で揺れる人物、というか婚約者を捨てておいて若い娘を口説く一方で婚前交渉をした男を死刑にしようとする為政者。健ちゃんがこれをどう演じるのか楽しみです。
男闘呼組ファンからは「王子」とか「フランソワ」と呼ばれる健一さんが『終わりよければすべてよし』で死にかけたフランス王を演じるという配役もまた興味深い。
二作とも中嶋朋子とソニンが演じる2人の女性との間で「ベッド・トリック」があり、私が観劇予定の日には学校団体が入るそうなんですが(学校で劇を見させられたりするあれですね)、「処女」とか「貞潔」なんて言葉が飛びかうこの芝居を今どきの学生たちがどう見るのか、こちらもちょっとドキドキします。
(シェイクスピア時代の倫理観、けっこうひどい。)


2023/09/19

『ルーズヴェルト・ゲーム』

 男闘呼組ロスというか高橋和也供給不足を補うために手っ取り早くTVerで配信されていた『ルーズヴェルト・ゲーム』を見始めました。

中堅精密器メーカー・青島製作所と社会人野球部を舞台に会社存亡の危機と廃部をめぐる攻防戦を描く企業ドラマ。

池井戸潤原作、『半沢直樹』のスタッフということで、悔しがったり、涙を流すおじさんたちの顔アップが続くという暑苦しい演出(そういうドラマだからしょうがない)。

工藤阿須加、馬場徹などイケメン野球部が出てくると「暑苦しい」が「熱い」になりホッとします。

わかりやすい展開だなあと思いつつ「敗者復活!」「逆転だ!」となんだかんだ夢中になって見てしまいました。

和也さんは野球部マネージャー古賀哲役。ストーリーの行方を左右するような役どころではありませんが、ちゃんと背景を感じさせる演技をしていて流石でした。

「怪我をした選手の辛さは俺がいちばんよく知っている」というセリフだけで、怪我で引退した元選手で野球をあきらめきれなくてマネージャーになった過去を推察できるんですよね。部員たちによりそう優しさもそこからきてるんだろうな。

主演の唐沢寿明、笹井専務役江口洋介がかっこいい。世代的に『愛という名のもとに』コンビ!と思ってしまいましたが、『白い巨塔』以来10年ぶりの共演だそうです。

そのほか、さすがの顔芸香川照之、こちらも顔芸すごかった宮川一朗太(いまだに『ヤヌスの鏡』と思ってしまう)、古賀マネージャーとともに野球部員の味方三上部長を好演していた石丸幹二、このメンツだと怪演もおとなしく見える手塚とおる監督、どこかで見たと思ったら『あなそれ』の有島くんだった悪役ピッチャー鈴木伸之(あんなにヘラヘラしながら投げるやついないて)、こちらも見たことあると思ったら『響』だった株主役の北村有起哉、かっこいい女社長はジュディ・オング、日曜劇場らしい濃いキャストが楽しかったです。


2023/09/18

『尺には尺を』

尺には尺を (白水Uブックス (26))

『尺には尺を』
ウィリアム・シェイクスピア
小田島雄志 訳
白水Uブックス

10月に新国立劇場で行なわれるシェイクスピア、ダークコメディ交互上演の予習として読みました。
英文科だったのでシェイクスピアは『オセロー』、『冬物語』なんかを授業で読んでおり、わりと好きだったりします。実際読んでみるとどれも話の展開がおもしろいんですよね。
台詞に関しては原文は韻をふんでいたり比喩も多いのでなかなか難しい。これは役者さんが流暢に語ってくれてこそ耳にスッと入ってくるものなのでしょう。
原文はほとんど古文のようなもので現代英語ともだいぶ違う。小田島雄志さんの訳は掛け言葉や韻をダジャレのように訳していて、元の意味よりも読んだときに楽しめるようにだいぶ意訳していると思われます。
新国立劇場ではこの小田島訳が原作として使われるようですが、さすがにこのままだと舞台の台詞にはならないので(文字として読んで理解できても耳で聴くと理解しにくい台詞が結構ある)そこはまたいろいろ変更されるのかな。
『尺には尺を』、『終わりよければすべてよし』、どちらもシェイクスピアの問題作と言われるだけあって結末の展開が強引すぎるし、複雑な性格と言ってしまえば聞こえはいいけど捉えどころが難しい登場人物だったり、話自体は難解ではないけれど演出によってだいぶ印象が変わってきそうな物語です。
岡本健一が『尺には尺を』で演じるアンジェロは自分の正義と欲望の狭間で揺れる人物、というか婚約者を捨てておいて若い娘を口説く一方で婚前交渉をした男を死刑にしようとする為政者。健ちゃんがこれをどう演じるのか楽しみです。
男闘呼組ファンからは「王子」とか「フランソワ」と呼ばれる健一さんが『終わりよければすべてよし』で死にかけたフランス王を演じるという配役もまた興味深い。
二作とも中嶋朋子とソニンが演じる2人の女性との間で「ベッド・トリック」があり、私が観劇予定の日には学校団体が入るそうなんですが(学校で劇を見させられたりするあれですね)、「処女」とか「貞潔」なんて言葉が飛びかうこの芝居を今どきの学生たちがどう見るのか、こちらもちょっとドキドキします。
(シェイクスピア時代の倫理観、けっこうひどい。)


2023/09/06

『はじめてのアメリカ音楽史』

はじめてのアメリカ音楽史 (ちくま新書)

『はじめてのアメリカ音楽史』
ジェームス・M・バーダマン、里中哲彦
ちくま新書

ハンク・ウィリアムズトリュビュートライブの予習としてカントリー・ミュージックの勉強に読んでみました。
カントリーに特化した書籍が見つからなかったのでざっくりとアメリカ音楽史。
そもそもカントリー・ミュージックって何? ウェスタン、フォーク・ソングとどう違うの? あたりの知識のなさから読み始めているので、アメリカの歴史、黒人音楽を白人が取り入れていった過程、宗教音楽としてのゴスペル、労働歌から生まれていったブルーズなど、いろいろ興味深かったです。
アーティストと曲名、固有名詞のオンパレードなので、名前だけ聞いたことがあっても音楽と結びつかないところも多かったです。ここらへんは実際に聴いてみないとわかんないなぁ。
著者のバーダマンさんがメンフィス出身なのもあって南部に話偏りすぎじゃないかと思うところもありました。
ハンク・ウィリアムズについては
「彼はさまざまな意味で、戦後まもないころの南部を体現しています。アラバマの田舎臭さを全身にただよわせ、場末の酒場に入り浸っている雰囲気をもっていました。」
「土曜の夜は酔いつぶれるまで飲んで、日曜の朝になると教会で魂の救済を願うような、そうした矛盾した存在の象徴のように見えます。」
と書かれていて映画『アイ・ソー・ザ・ライト』とあわせて納得しました。
『アイ・ソー・ザ・ライト』という曲自体、神をたたえるゴスペルの系譜になるのかな。
参考になりそうな映画もたくさん紹介されていたのでここらへんもゆっくり見ていきたい。


2023/08/10

『風立ちぬ・美しい村』

風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)

『風立ちぬ・美しい村』
堀辰雄
新潮文庫

小淵沢に行ったので避暑地の物語的なものを読みたくて調べたらまっさきにこれがヒットしました。
軽井沢が舞台だと思っていたら、前日譚のような『美しい村』は旧軽井沢が舞台ですが、『風立ちぬ』のサナトリウムは富士見高原療養所がモデルでした。現在は富士見高原病院ですが2012年までは資料館として建物が残っていたとか。
富士見にはmountain bookcaseさんに行ったとき、少し歩きました。今ではだいぶ変わっているはずだけど、主人公が散歩した谷や雑木林を現在の風景に重ねてイメージしてみる。
堀辰雄は初めて読みましたが、風景の綴り方や文体のリズムが詩のようで美しいですね。
中村真一郎の解説に「堀辰雄の文学は、この世ならぬ、ある香りのようなもの、実在しない、素敵な夢のようなもの、現実であるには純粋すぎるもの、というふうに受けとられ」がちで「そのような作品を書いた作者は、やはりこの雑駁な社会には生きていなかった、人間ではない妖精のような存在だと、誤解される結果になっている。」とありますが、私もそれに近い感じで読みました。
病床の婚約者とともに山の中のサナトリウムで孤独に過ごす日々をどこか甘い夢のように描いているのですが、実際に堀辰雄は婚約者と療養所に滞在しているので、実体験をこんな風に書いてしまうなんて、この作家は現実も少し浮世離れして生きているんじゃないかと考えたりしました。
『美しい村』も実体験が元になっているとすると、軽井沢に滞在しているうちに若い女の子たちと知り合い、そのうちの一人と恋をして、数年後にまた同じ場所で別の少女と出会う、なんてどんなモテ男なんだ。思わず顔写真をチェックしちゃったけど、文学青年って感じですね。
堀辰雄が滞在して執筆したという信濃追分の湯屋旅館は現在ギャラリーに、『美しい村』のモデルとなった、つるや旅館なども残っているようなのでいつか行ってみたいです。


2023/07/27

『最初の悪い男』

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

『最初の悪い男』
ミランダ・ジュライ
岸本佐知子 訳
新潮社

初ミランダ・ジェライ。
読んだこともないのにリディア・デイヴィスと同列のように思っていたのは岸本佐知子訳だからなのか。
予想以上に変な話でした。
43歳独身のシェリルをはじめ、登場人物がみんな〝痛い〟。シェリルの妄想についていけなくて最初の数章は読み進むのに苦労しました。
その後の急展開から俄然話がおもしろくなって後半は一気読みしたんですが、中盤で予想外のハッピーエンドにしないところがまた。
ミランダ・ジェライ自身、この長編の前に、インタビュー集『あなたを選んでくれるもの』を出版していたりする人ですが、シェリルとクリーの関係は「フェミニストの連帯」を軽く超越してしまうので、どう受け止めていいのか。
彼女はすごい遠回りして自分の妄想を実現させたようにも思えるけれど、これは彼女が望んでいたことなのかどうか。最後まで奇妙な読後感が残りました。


2023/07/22

『アイ・ソー・ザ・ライト』

2015年公開。
カントリー・シンガー、ハンク・ウィリアムズの伝記映画。

9月に開催される『高橋和也 Presents Hank Williams 生誕100周年記念 Tribute Live!!! 』の予習として視聴しました。

ハンク・ウィリアムズを演じるのは『マイティ・ソー』のロキ様、トムヒことトム・ヒドルストン。ロキの頃から人気のある彼ですが、優男的な風貌に私は今ひとつ魅力がわからず。でも、今回のハンク役は寂しげな感じや笑顔で歌うときも笑っていない眼とか歌、演技ともとても良かったです。

奥さんオードリー役がエリザベス・オルセン。彼女も『アベンジャーズ』ですね。

そもそもハンク・ウィリアムズの知識がまったくなかったのですが、アメリカでは超有名人だからなのか、映画は全体的に説明不足でこれを見ただけでは脊椎の痛みやアルコール依存症を抱えながら過酷なツアースケジュールをこなしていた理由や、なぜ彼の歌がみんなに愛されたのか、その後のカントリーやロカビリーなどに与えた影響などはよくわかりません。

死亡シーンをばっさり省略してるのは驚き。人気歌手がキャディラックの中で孤独に死んでゆく、重要な場面だと思うのですが、ここ飛ばすんだな。

そこで本日は朝からハンク・ウィリアムズ祭り。ネットでハンクの生涯と代表曲をチェック→歌詞を和訳とともに確認しながらハンクのオリジナル版を聴く→さらに高橋和也バージョンの鑑賞を繰り返しています。

しかし伝説的カントリー・シンガーだけにwikiの「略歴」ですらめちゃくちゃ長い。「生い立ち」になるとお父さんの家系から始まる。ここはベースとして映画を見ていてよかったです。

カントリーの明るい曲調でも歌詞を見ると「君が去っていってとても寂しいんだ」みたいな歌が多く、妻オードリーとの愛憎関係が反映されている気がします。

映画では詳しく描かれませんが、奥さんも歌手でプロモーションもしているのにハンクだけが売れていき、自分が子育てしてる間に彼はツアー先で浮気しているのは耐えられなかっただろうなと。

派手な女性関係にしてもハンクの側の感情が映画ではわからないんですが、結婚はできないけど生まれてくる子供は認めるとかボビーに対してはある意味、誠実な気がします。
(生まれてきた娘やオードリーとの息子もカントリー・シンガーになってるんですね〜。)

高橋和也バージョンについてはラジオ番組で放送されたときの模様がYouTubeで公開されているのが助かります。ハンクによせて歌ってる声の良さももちろんですが、楽しそうに演奏してる笑顔がかわいいんだな。

ハンクのオリジナルはシンプルなので、エルビス・プレスリーの『Your Cheatin' Heart』や、カーペンターズ『Jambalaya』など、カバーのほうが聞きやすい。ここらへんにも彼の後世に与えた影響があるのかなと思います。

カントリー沼も深そうなのでライブまでゆっくり楽しみたいです。

2023/07/20

『魔女のシークレット・ガーデン』

魔女のシークレット・ガーデン

『魔女のシークレット・ガーデン』
飯島都陽子
山と渓谷社

@westmountainbooksさんが前に紹介していて気になっていた本。
魔女に関わる四季の植物をイラストや言い伝えとともに紹介する。
イラストがオシャレすぎて実際の花や木、効用が頭に入ってこないので実用性には欠けますが、ヤナギがヨーロッパでは異世界の境界に立つ木と考えられているなど、ケルトや北欧神話が興味深かったです。
魔女と呼ばれたのは薬草をつかさどる自然療法師だったのではという話、冬は庭を妖精や精霊にたくす、北欧神話のブルシンガメンの首飾りなども気になりました。
魔女人形に興味があるので横浜の『グリーンサム』にはいつか行ってみたい。


2023/07/18

『旅をする木』

旅をする木 (文春文庫)

『旅をする木』
星野道夫
文春文庫

死後20年以上たつというのにいまだに雑誌で特集されたり写真展が開かれたりする星野道夫。うちの母もNHKで特集されたりするとだいたい見てます。そんなこともあって食わず嫌いだったんですが、手始めに一番有名なこのエッセイから。
星野道夫に抱いていたイメージは、厳冬期にはマイナス50度にもなるというアラスカにわざわざ写真を撮りに行く人の気持ちはよくわからないというのが正直なところで、それは読み終わった今も同じ。
「写真を撮りに行っていた」のではなく、アラスカで15年以上も暮らしていた人であるとか、16歳のときにひとりアメリカへ2ヶ月の旅をしたとか、本書であらためて知ったこともありました。
アーミッシュやグッチン・インディアンなど、基本的に人に出会うための旅をした人なんだなというのも今回の再認識。
彼は写真家だというのもあって言葉では彼の見た風景というのは伝わりづらい。その場にいないと感じられない想いというのもなかなか共感しづらいところがあります。
池澤夏樹の解説がさすがで
「『旅をする木』で星野が書いたのは、結局のところ、ゆく先々で一つの風景の中に立って、あるいは誰かに会って、いかによい時間、満ち足りた時間を過ごしたかという報告である。実際のはなし、この本にはそれ以外のことは書いてない。」
すべて後付けになってしまうのですが、20代で遭難した友人や亡くなったブッシュ・パイロットたちを通して、彼が常に人生の短さを意識しているのは印象的でした。


2023/07/17

『自由研究には向かない殺人』

自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫 M シ 17-1)

『自由研究には向かない殺人』
ホリー・ジャクソン
服部京子 訳
創元推理文庫

2、3年前に話題になったヤングアダルトミステリー。タイトルと表紙が夏休みっぽくて手にとってみました。
『自由研究に向かない殺人』という邦題はすばらしいけれど、原題は『A Good Girl’s Guide to Murder』。
EPQ(Extend Project Qualification)は「夏休みの自由研究」的な軽いものではなく、大学進学に必要な卒論くらいな感じのようです。
女子高生ピッパがこのEPQのテーマに自分の街で5年前に起きた殺人事件を選択し、真相にせまっていくという設定がまずおもしろい。
「私の自由研究に協力してください〜」とEPQを盾に警察や記者、事件関係者にインタビューし、Facebookやショートメッセージを追いかけて失踪した女生徒の交友関係を調査しているのも今どきの若者らしい。(原書発売が2019年で、物語の舞台は2017年。)
調査結果がレポートの形で読者にオープンにされているのも読みやすい。
調べていくうちに被害者である女生徒の裏の顔が見えてきたり、高校生たちの友情が必ずしも優しい関係ではなかったり、小さな街だから誰もが容疑者になりうる立場だったり。
ネットを使ったイジメや、カースト上位しか招待されないパーティーにもイギリスの高校生たちの青春が垣間見れます。特に「高校生の頃、あの子に憧れて、あの子の取り巻きだった自分は好きじゃない」と5年後に語る女性の言葉がグッときました。
犯人の動機が弱すぎるとか、なぜ主人公は危険だとわかっていてひとりで殺人犯に立ち向かいがちなのか(ハリウッド映画のクライマックスなんかでよくある展開)、関係者に与えたその後の影響を思うとハッピーエンドでいいのかとか思ったりはしますが、ヤングアダルト世代のための小説として楽しく読みました。


2023/07/09

『オトコだろッ!』聖地巡礼 小淵沢編

『オトコだろッ!』聖地巡礼 甲斐小泉編より続く。

●小淵沢駅

第5話、佳恵さんがお客さんを迎えに行くシーン、第6話、美佐が東京へ向かうシーンで登場。

ドラマ内ではわかりにくいのですが一郎太さん家の最寄り駅は甲斐小泉駅。ここから東京へ向かうには小海線で小淵沢駅まで出て、中央線に乗り換えます。特急で新宿まで約2時間。
第6話で一郎太さんが美佐を送っていったのが甲斐小泉駅、美佐が売店で雑誌を買おうとしているのが小淵沢駅、一郎太さんが美佐を連れ戻しに行って特急を見送ったのも小淵沢駅です。何度も駅が出てきて「あれ?さっき見送ったのに?」となりますが、交通的にはリアルな描写です。
ペンションハート&ハートは小淵沢駅から車で10分ほどの距離なので佳恵さんがお客さんを迎えに行くのも小淵沢駅です。

ドラマ撮影時は小さな木造駅舎でしたが、2017年に二階建て鉄筋の新駅舎にリニューアル。それにともない、駅の位置が少し移動して旧駅舎のあった場所はロータリーになっています。


『オトコだろッ!』第6話


『オトコだろッ!』第5話


小淵沢駅


『オトコだろッ!』第6話


小淵沢駅前ロータリー
場所的にはこの辺ですがドラマに出てきた店舗は建て替えられていました。
右側にちらっと見える清水屋の店舗のみ現存。


旧駅舎があったあたりにはなぜか馬のモニュメント。


『オトコだろッ!』第6話


小淵沢駅中央線ホーム

第6話で美佐が雑誌を買おうとする売店に「生そば」の看板が見えますが、丸政そばは昭和31年(1956年)から小淵沢駅で駅そば店を営業している人気店です。新駅舎リニューアルの際にホーム上の店舗はなくなりましたが、現在は改札側に店舗があります。


『オトコだろッ!』第6話


小淵沢駅


『オトコだろッ!』第6話

丸政そば小淵沢店


小淵沢駅 小海線ホーム

●ペンションハート&ハート
ドラマ撮影から35年。ペンションブームも遠い昔。ペンションの多くは別荘や個人の住宅(二拠点用?)に建て替わっていました。そんな中、ハート&ハートが残っていたのは奇跡的。ただ、2023年7月現在、新規の宿泊予約は受け付けていないようです。案内板の看板はありましたがペンション前の看板は外されていました。HPを見ると2022年12月までは営業していたようですが。「佳恵さん……」と心の中でつぶやいてきました。


『オトコだろッ!』第4話


ペンションハート&ハート



『オトコだろッ!』第2話


ペンションの周囲もだいぶ雰囲気が変わっていますが
屋根の形が特徴的な住宅が残っていました。

●小淵沢
ドラマ放映時もあんなに「ギャルギャルギャル」状態だったかあやしいものですが、平日ということもあって人通りはほとんどありませんでした。そもそも小淵沢駅から車移動が基本なので歩いているもの好きは私くらい。

テニスコートや乗馬クラブなどは今でもありますが、ドラマ内に出てきた場所が残っているのか、だいぶ雰囲気が変わっているのでわかりませんでした。
ドラマ内で店舗の名前が確認できたのが「エルパソ」と「ラヴィアンローズ」。案内板に名前が残っていましたが、今では別荘地帯になっているので跡地を特定できませんでした。


『オトコだろッ!』第3話


『オトコだろッ!』第3話
暴走族がバイクで乗り回しているのが「エルパソ」。

『オトコだろッ!』第2話
「ラヴィアンローズ」成二と晴彦がギャルと一日中遊んでいた
テニスコートがあります。


かすれてしまってわかりにくいですが
案内板に「ラヴィアンローズ」の名前があります。

●すみれ荘跡地
唯一特定できたのが「すみれ荘」跡地。Googleマップにはテニスコート跡が写っていて衝撃的なのですが、帰宅後に気がついたので現地で確認できませんでした。


『オトコだろッ!』第3話
「すみれ荘」の看板が見えます。


Googleマップ 2023年3月撮影


『オトコだろッ!』第3話
アッコちゃんが美佐とすれ違うシーン。


Googleマップ 2023年3月撮影
テニスコート跡が衝撃的。

●寺崎コーヒー 小淵沢店
『オトコだろッ!』とは何の関係もありませんが、ペンションハート&ハートの近くにあります。甲府の人気店の3号店が2022年11月にオープン。平日にもかかわらずここはお客さんがとぎれることなく、落ち着いた空間にラズベリー&チョコマフィンおいしかったです。


寺崎コーヒー 小淵沢店




●リゾナーレ八ヶ岳
こちらも『オトコだろッ!』とはなんの関係もありませんが、小淵沢駅から無料シャトルバスが出ているので移動の拠点としておすすめです。周辺もオシャレな飲食店がいくつかあります。ここからハート&ハートまでは徒歩で40分ほどでした。


リゾナーレ八ヶ岳
突如として登場するシャレオツ異空間。
無料シャトルバスで小淵沢駅から5分。

小淵沢周辺は廃墟も覚悟していましたが寂れているというよりはリゾート地ではなく静かな別荘地帯に変化しているという感じでした。ドラマ内で建てていたログハウスやコテージ風の建物もありますが最近は床暖房、薪ストーブ完備のモダンな別荘のようです。35年の変遷に思いをはせながら歩いてきました。






●吐竜の滝
第7話、成二と美佐がぬいぐるみを流しているのは吐竜の滝と思われます。
第1話の鉄橋は吐竜の滝の近く、川俣川にかかる小海線の鉄橋ではないかと予想。
同じく第1話で功が女の子を助けた川も川俣川渓谷あたりではないでしょうか。
車でないとアクセスできない場所にあるので今回は回れませんでした。


『オトコだろッ!』第7話


『オトコだろッ!』第1話