2023/07/27

『最初の悪い男』

最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

『最初の悪い男』
ミランダ・ジュライ
岸本佐知子 訳
新潮社

初ミランダ・ジェライ。
読んだこともないのにリディア・デイヴィスと同列のように思っていたのは岸本佐知子訳だからなのか。
予想以上に変な話でした。
43歳独身のシェリルをはじめ、登場人物がみんな〝痛い〟。シェリルの妄想についていけなくて最初の数章は読み進むのに苦労しました。
その後の急展開から俄然話がおもしろくなって後半は一気読みしたんですが、中盤で予想外のハッピーエンドにしないところがまた。
ミランダ・ジェライ自身、この長編の前に、インタビュー集『あなたを選んでくれるもの』を出版していたりする人ですが、シェリルとクリーの関係は「フェミニストの連帯」を軽く超越してしまうので、どう受け止めていいのか。
彼女はすごい遠回りして自分の妄想を実現させたようにも思えるけれど、これは彼女が望んでいたことなのかどうか。最後まで奇妙な読後感が残りました。


以下、引用。

183
ミーティングがお開きになると、スーザンとわたしは給湯室で黙って紅茶を淹れた。わたしは彼女が会話のきっかけを作ってくるのを待った。わたしが紅茶をひと口飲む。彼女も紅茶をひと口飲む。しばらくしてわたしは気がついた。これが会話なんだと。今まさに、わたしたちは語り合っているのだ。

261
ときどきわたしは彼女の寝顔を、その息づく肉を見て、命あるものを愛することの心もとなさに身がすくんだ。目の前のこの人は、水がなかなっただけで死んでしまうのだ。植物に恋をするような危うさだった。

262
「たしかに。しかしこの子が走れるかどうかは、走ってみるまでわからない。子供というものはそういうもんです」

「なるほど。将来、ですか」ドクターの顔にふっと影がさした。「お子さんが将来ガンになるかどうか知りたい? あるいは車に轢かれるか? 躁鬱病になる? 自閉症になるかどうか? ドラッグ中毒になる? それは何ともわかりません、私は超能力者じゃないのでね。子供をもつとはそういうことなんですよ」

268
睡眠不足と寝ずの番とひっきりなしの授乳、この三つのコンボは、じわじわと、でも確実に古いワタシを型にはめて、新しいワタシ──すなわち母親──に成形するための、一種の洗脳だ。

293
ぼくにとっていちばん大事なことはまちがいなくこれだよ、こういうことをぼくは人生の中心に据えたい。
虹を?
虹と、虹みたいなものぜんぶ。
虹に似たものなんてないのよ。虹に仲間はいないの。虹みたいなものは、この世に虹しかないの。


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