2024/02/12

『カーディとお姫さまの物語』

カーディとお姫さまの物語 (岩波少年文庫 2098)

『カーディとお姫さまの物語』
ジョージ・マクドナルド
脇明子 訳
岩波少年文庫

『お姫さまとゴブリンの物語』の続編、のはずなのですが、これはもう別の物語。
ゴブリンというわかりやすい悪と戦っていた前作に対し、ここでは悪は人間の心にある。
出てくる人間のほとんどが悪い心をもっていて、そんな人間の中には獣がいる。一方で醜い獣たちの中には純粋な子供の心がある。
「ある哲学者たちが言っていることだけど、人間は昔、みんな獣だったって話、聞いたことある?」
「人間はみんな、ちゃんと気をつけていないと、山を下って獣たちのところまでおりてしまうってことなのよ。実際、一生のあいだ獣たちのほうへおりていくばかりの人たちが、ずいぶんいるわ。みんな以前はそのことを知っていたんだけれど、もうずいぶんまえにすっかり忘れてしまったのよ」
(102ページ)
解説によると、この物語にでてくる奇怪な獣たちはダーウィンの『種の起源』(1859年)の副産物ではないかということで、たしかに「獣が人間になる」、「人間が獣になる」あたりに影響がみられる気がします。
タイトルにある『お姫さま』は前作のアイリーン姫というより、おばあさまの方をさしているようです。このおばあさまが『北風のうしろの国』の北風のようにカーディを導いていくのですが、また言うことが難解なんだな。
全編ネガティヴ、哲学的で難解、暗くて不条理です。なによりもエンディングが衝撃的でした。
これも解説によると、イギリスの急速な経済発展によって起こった古い社会や道徳の崩壊にマクドナルドが失望していたからではないかということです。
作品が連載されたのが1877年、出版されたのが1882年。イギリスは19世紀後半ヴィクトリア朝の時代です。
それをふまえると、城の家臣たちや街の人々の腐敗ぶりも理解できなくはないんですが、カーディのまっすぐな心がそれに打ち勝つという単純な話ではないのがまた難しい。
以下、引用。

18
それに、たとえそれが当人のためだと思っても、私たちは、自分がその立場ならやらないことを、子どもたちや友人たちにさせたいと願ってはならないということにもです。私たちは正しい犠牲をささげることだけでなく、それを受け入れることもできなくてはならないのです。
24
息子は、心の奥深くに昔子どもであった自分をかかえ、命とおなじくらい大切にして、決してなくさないようにしなくてはなりません。正しい人間になっていくには、お母さんの宝、お父さんの誇りでありつづけ、さらにそれ以上でなくてはならないのです。子どもは死ぬために生まれてきたのではなく、何度も何度も復活をくり返すために生まれたのですから。
40
いいことをするつもりでいないと、人はいつだって悪いことをしてしまいかねないんだからね。
61
ピーターはさらに、どうしてみんなそのばあさんのことになると、いい話より悪い話のほうにとびつきたがるんだとたずねました。するとみんなは、そのばあさんが悪いやつだからだと答えました。だったら、どうして悪いやつだとわかるんだときいてみると、悪いことをしたからだという返事が返ってきました。どうして悪いことをしたとわかるんだとたずねると、悪いやつだから、というのが返事でした。
77
「貧しいってことは、たいへんな特権ですわ、ピーター──だれもほしがらない、ほんの少しの人しか保とうとしない、でも、たくさんの人がその価値を学んできた特権ですのよ。
80
「姿なんて着物にすぎないし、着物は名前にすぎないわ、カーディ。中にあるものは、いつだっておなじなのよ」
86
カーディは、お父さんは疲れていてさえなんと立派に見えるんだろう、と思いました。人間から品位を奪ってみすぼらしくしてしまうのは、欲深さやなまけ心や利己主義なのであって、決して飢えや疲れや寒さではないのです。
103
「だって、正しい言葉が私のやってほしいことをきちんと果たしてくれるとはかぎらないけど、まちがった言葉はまちがいなく、やってほしくないことをしてくれますもの。」
146
現に、ある哲学者たちの一派などは、都の過去の歴史が役に立つのは、それがいかに未熟なものであったかを知ることによって、現在の住民たちが自分たちおよびその時代の優秀性を確認し、その栄光の座から祖先を見おろすことが可能になるからであって、そのことがなければ歴史などはきれいさっぱり忘れたほうがよいと教えていました。
158
「ぼくらはどちらも、王さまにお仕えするこの国のちゃんとした一員ですよ。それにこいつの見てくれが悪いにしても、それはこいつのせいじゃないんです。あなただって、もしみっともないってだけでこんなめにあうとしたら、どんな気がすると思いますか? こいつだって、自分のみてくれがいいと思ってるわけじゃありません。だけど、どうすりゃあそれが変えられるっていうんですか?」
160
「ねえ、リーナ」と、カーディは言いました。「ここの人たちは城門はあけっぱなしにしておくくせに、自分の家と心は開こうとしないんだね」
329
「それならば、ついてこい。もしもわしが男でないとしたら、おまえのような女でありたいものじゃ」

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