2019/09/27

『すべての、白いものたちの』

すべての、白いものたちの

『すべての、白いものたちの』
ハン・ガン
斎藤真理子 訳
河出書房新社

『82年生まれ、キム・ジヨン』で韓国文学に興味がわいたので、@mountainbookcaseさんが紹介していて気になっていた『すべての、白いものたちの』を手にとってみる。

短編集というかエッセイ集というか全編、美しい詩のような作品。美しいといってもオシャレな美しさではなく、静謐で哀しみを湛えた美しさ。何枚か掲載されている写真(Douglas Seok とクレジットされている)のような、コンクリート打ちっ放しの、ガランとした、殺風景で無機質な冷たいモノトーンの美しさ。 

@mountainbookcaseさんが紹介していたのは「タルトック」と「白い石」の一節なのだけど、特別な言葉は使われていないのに妙に心に残っていた。適当にページを開いて読んでみるとどのページも何かしらが心に残る。

一気に読み飛ばしてしまうのが惜しくて、一日に数ページずつ、大切に読みました。

韓国語はまったくわからないので、文章の美しさ、力強さに、斎藤真理子さんの訳がどれだけ貢献しているのか判別できないが、ハン・ガンという作家の作品をもっと読みたいと思う。

5種類の紙が使われていたり、天(ページの上の部分)が切り揃えていなかったり、装丁も静かに凝っている。

表紙の写真はベビー服だと思うが、生ではなく死を象徴しているところに愕然とする。


以下、引用。

これを書く時間の中で、何かを変えることができそうだと思った。傷口に塗る白い軟膏と、そこにかぶせる白いガーゼのようなものが私には必要だったのだと。

ひばりによく似た声の鳥が鳴き、鬱蒼たる樹々が無数の腕と腕をさしかわしている小道に沿って歩いていくうちに、気がついた。つまりこれらのすべては一度、死んだのだと。この樹木、鳥たち、路地も通りも、家並みも電車も、そしてすべての人々が。

霜がおりはじめるころから、陽の光は少し青みを帯びてくる。人々の口から白い息が漏れてくる。木々は葉を落としてしだいに軽くなる。石や建物など固いものたちは、微妙に重くなったように見える。

ひたぶるに雪片は舞い散る。
街灯の明かりがもう届かない、真っ暗な虚空に。
語ることを持たない黒い木の枝の上に。
うつむいて歩く人々の髪に。

生は誰にも対しても特段に好意的ではない。それを知りつつ歩むとき、私に降りかかってくるのはみぞれ。

洗い上げてきっぱりと乾いた白い枕カバーとふとんカバーが、何ごとか話しているように感じることがある。そこに彼女の肌が触れるとき、純綿の白い布は語りかけてくるかのよう。あなたは大切な人であり、あなたは清潔な眠りに守られるべきで、あなたが生きていることは恥ではないと。

いかなる苦痛も味わったことがない人のように、彼女は机の前に座っている。
さっきまで泣いていた人でも、今にもまた泣きだしそうな人でもないみたいに。
打ちのめされたことがない人であるみたいに。
我々は永遠を手に入れることができないという事実だけが慰めだった日など、なかったように。

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