2019/10/20

『菜食主義者』

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

『菜食主義者』
ハン・ガン
きむ ふな 訳
クオン

ハン・ガン、3冊目。
『すべての、白いものたちの』、『そっと 静かに』はエッセイ集なので、彼女の小説はこれが初めて。

彼女が心温まる物語を書くだろうなどとはもちろん思っていなかったんですが、予想以上に壮絶で、中編三作のそれほど長くない小説のわりには読むのに時間がかかりました。

『菜食主義者(ベジタリアン)』という言葉のやわらかさとは裏腹に、主人公ヨンへは肉を食べることを拒絶し、植物になりたいと願い、やがては食べることも放棄する。

訳者あとがきでは「私たちの中でうごめいている動物性と静かに揺れる植物性との葛藤」と説明されているのだが、そんなことを言われてもよくわからない。

三作の中ではヨンへの姉の視点から語られる『木の花火』が比較的共感しやすいのですが、ハン・ガンの描く「なにかを失った人の孤独」というものに私は強く引かれるようです。

ここ近年、注目されている韓国文学ですが、「新しい韓国の文学」シリーズ第一作としてこの作品を日本で出版しているクオンの活動はすばらしいですね。


以下、引用。

バスはスピードを上げて雨の中を走る。彼女は何とかバランスをとりながら奥のほうに進む。二つ並んだ席の空いているところを探して窓側に座る。かばんの中からティッシュを取り出して、曇った車窓を拭く。長い間孤独だった人間だけが持つことのできる堅固な視線で、車窓を叩く激しい雨脚を眺める。

さほど時間が経たないうちにふと気づいたのは、彼女が切に休ませたかったのは、彼ではなく彼女自身だったかもしれないということだった。十八歳で家を出てから、誰の力も借りずにたったひとりでソウルでの生活を切り開いた自分の後ろ姿を、疲れた彼の姿に照らし合わせていただけではなかっただろうか。

生きるということは不思議なことだと、その笑いの末に彼女は考える。何かが過ぎ去った後も、あのおぞましいことを経験した後も、人間は飲んで食べて、用を足して、体を洗って、生きていく。


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