『観光』
ラッタウット・ラープチャルーンサップ
古屋美登里 訳
ハヤカワepi文庫
著者の名前が何度見ても覚えられない&発音できない、タイ文学。
タイ文学といっても著者はアメリカの大学で創作を学び、英語で執筆しているタイ系アメリカ人。
観光客に対する軽蔑と憧れ(飼っているブタの名前がクリント・イーストウッド!)、クジ引きで徴兵が決まる抽選会(でも金持ちは付け届けをすれば逃れられる)、難民との確執など、タイ出身だからこそ書ける視点もありますが、貧しさとともに生きていく強さなど、ルシア・ベルリンやヘミングウェイのような雰囲気も感じます。
注目のアジア系若手作家なのだが、訳者あとがきによると、2010年の時点で著者とは連絡がとれず、執筆をつづけているのかも不明だそうだ。
(あとがきに出てくる紀伊國屋で開催された「ワールド文学カップ」覚えてる!)
よくみるとブタちゃん(こいつがイーストウッド)が泳いでいる表紙。
以下、引用。
11
「セックスと象だよ。あの人たちが求めているのはね」
41
会葬者の前に横たえられているのは父ではなく──ゴムの木の棺の中にいるのは、お寺の焚き付けのような炉の中でポンポン、パチパチ音を立てているのは、父の体ではなく──見事なまでに父に似せて作られた人形だと思っていた。
48
それに、子どもが自分の愛する人の悲しみの深さを理解するようになったときには、もう子どもではなくなっているのだ。
127
ぼくの母は、難民は好ましくない兆候だと言った。「仏様がなにかを知らせようとしていなさるんだよ。もしかしたらこう告げていなさるのかもしれない。〝おいおい、ちょっといいかね、ここにはスポーツ・クラブも公園も遊び場もプールも、おまえたちがここに最初に来たときにほしいと思っていたいかなる建物も建ててはならない。そのかわりにわしがカンボジア難民を与えよう。彼らは愉快なものではない。だが、いいか、人生は百貨店ではないぞ。ときには金では手に入らないものがあるのだ〟ってね」
223
おまえの父さんは、タイのチャールズ・リンドバーグになるつもりでいたんだよ。
226
「ちゃんと覚えておおきよ、ラッダ。男ってのはみな怪物さ」とママは言った。「慎みってものがまるでない。女にできることといえば、野蛮な行為に耐える術を身につけることだけ」
240
姉のチャルニーがバンコックに行って帰ってきたらチャーリーという男になっていたのは有名な話だ。チャルニーは男になっただけでなく、ガイジンにもなった。
268
直角、斜辺、タンジェント、サイン、コサイン。そういったものが意味もなく目の前を通り過ぎていった。しばらくするとこうした方程式が、この世で時間を潰すために、暇人が考え出したものに過ぎないような気がしてきた。
272
蝉の声は寺院の中に響き渡る読経のように木々の間を渡っていった。
309
「教え子から、ぼくの勧める作品は気が滅入るようなものばかりだと文句が出ると、いつもぼくはこう言うんだ。作品は悲しくなるために、あるいは気を滅入らすために書かれているのではなく、作品としてのあるべき姿になるように書かれているのだ、芸術としての姿になるように書かれているのだよ、とね」
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