2024/06/27

『ガザとは何か』

ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義

『ガザとは何か』
岡 真理
大和書房

松谷みよ子『私のアンネ=フランク』という作品があり、だいぶ前に読んだので記憶が曖昧ですが、ラストではユダヤ人の国としてイスラエルの建国が国連に認められたことを主人公の少女が喜ぶ場面がありました。(1979年の作品なのでパレスチナ難民の問題も書かれていたかもしれません。)

私の認識もこれに近くて、ユダヤ人のための国がやっとつくられた、しかしそれにはパレスチナ難民という問題がずっと続いている、という感じで捉えていました。
そもそもイスラエルに住んでいるのはユダヤ人なのか、パレスチナに住んでいるのは誰なのか。そんな基本的な認識すら正しくできていなかったように思います。

緊急講義をもとにした本書では歴史と問題点、現在ガザで起こっていることがわかりやすくまとめられていて、複雑すぎてわからないと逃げがちなパレスチナ問題がやっとすっきり理解できました。
ただ、「わかりやすい」というのは危険なことで、わかったつもりになってはいけない。質疑応答にあったように「私たちはガザのために今何ができるのか」、まずは知ることから始めたいと思います。


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「暴力の連鎖」「憎しみの連鎖」という言葉で、パレスチナ、イスラエルで起きていることを語るのは、端的に言って誤りであり、事実の歪曲であり、事実の隠蔽です。

ヤコブ・M・ラブキン『イスラエルとは何か』平凡社新書
文富軾 『失われた記憶を求めて』現代企画室
ガッサーン・カナファーニー『ハイファイに戻って』河出文庫

◆関連書籍
イスラエルとは何か (平凡社新書)
ヤコブ・M・ラブキン
菅野賢治 訳
平凡社新書

2024/06/13

『やかまし村の春・夏・秋・冬』

やかまし村の春・夏・秋・冬 (岩波少年文庫 129)

『やかまし村の春・夏・秋・冬』
アストリッド・リンドグレーン
大塚勇三 訳
岩波少年文庫

『やかまし村』シリーズ、2冊目。
クリスマス、復活祭などのイベントはありますが、基本的には日常の物語。
なのになんでこんなに楽しいのか。

「平凡な毎日こそが幸せ」というよりは、リーサの視点が「平凡な毎日」をスペシャルにしてるんだと思うんですよね。
リーサとアンナのお買いもののドキドキ感よ。

なんで人間は鬼ごっこなんかするのか、牝牛には、きっとわからないでしょう。といって、よくかんがえてみると、わたしにも、なぜだかはわかりません。でも、なにしろ、鬼ごっこはおもしろいんです。
(69ページ)

ラッセとボッセとわたしは、どの卵も、赤や黃や緑にぬっておきました。色つきの卵って、とにかく感じがいいですから、卵にはいつも色をぬっとくといいとおもいます。
(92ページ)

スウェーデンの復活祭は魔女の扮装をするんだとか、ラストの方で語られる戦争から第二次対戦中スウェーデンは中立の立場を通したということを知りました。

屋根裏部屋にいると、とてもいい気もちでした。頭のうえの屋根には、雨がはげしい音をたててぶつかり、軒にある雨どいでは、水がザアザアながれる音がしました。その屋根裏にすわりこんで、カステラをたべて、そして、そとにでなくていいというのは、すてきでした。
(160ページ)

これって少し前に日本でも話題になった「ヒュッゲ」ですよね。(ヒュッゲはデンマーク語ですが。)外が嵐だからこそ満たされる安心感。
やかまし村は3軒しか家がないし、子どもも6人(プラス赤ちゃんひとり)しかいないので、普通に考えるとすごく寂しい村な気がするんですが、物語全体にただようのはこの安心感。
この場面はなんだか泣きそうになりました。

◆関連書籍
やかまし村の子どもたち (岩波少年文庫(128))
アストリッド・リンドグレーン
大塚勇三 訳
岩波少年文庫

2024/06/06

『ツレが「ひと」ではなかった』

ツレが「ひと」ではなかった異類婚姻譚案内

『ツレが「ひと」ではなかった 異類婚姻譚案内』
川森博司
淡交社

フィギュアスケートの吉田陽菜が鶴をテーマにしたプログラムを演じていましたが、そもそも海外で鶴ってどこまで知られているのだろう(吉田陽菜の衣装は白と黒、赤のポイントというタンチョウヅルのイメージ)、『鶴の恩返し』ってめちゃくちゃ日本的な話だけどこういう異類婚姻譚って海外にもあるのかなと調べたところちょうどいい本がありました。

日本の昔話を中心に「動物との婚姻」、「異界の者との婚姻」、「異形の者との婚姻」の類型を紹介、ヨーロッパや中国・韓国、アイヌなどの伝承と比較しながら日本の異類婚姻譚の特徴を分析しています。

・動物との婚姻
動物の女房『鶴女房』
動物の夫『猿聟』『オシラサマ』『蛙の王さま』

・異界の者との婚姻
『浦島太郎』『天人女房』

・異形の者との婚姻
異形の女房『雪女』『食わず女房』『鉢かづき』『人魚姫』
異形の夫『一寸法師』『美女と野獣』『鬼聟』『片側人間』

日本の異類婚姻譚(特に異類女房譚)では、「動物救済→押しかけ女房→報恩」という形で話が展開し、「見るなの禁止」というタブーを破ったことで女性の本性が露呈すると例外なく離婚。

ヨーロッパの伝承はこれと逆で異類が人間の女性と結婚することによって人間の姿に戻る。
『蛙の王さま』や『美女と野獣』に見られるように、ヨーロッパの伝承では本来は人間である存在が魔法によって異類の姿になっているので実際には異類婚姻ではなく人間どうしの婚姻です。

日本の異類が男性の場合、婚姻が成立する前に人間に殺されたりして異類が排除されるパターンが多い。
『一寸法師』はハッピーエンドですが、最終的に打ち出の小槌により一寸法師は成人男性になるのでヨーロッパ伝承に近い。

鬼と結婚する話では「体の右半分は鬼、左半分は人間」という「片側人間」の子供が生まれるというホラーな展開に。これ、なんのモチーフなのか考えると非常に怖い。
「片側人間」の民話はヨーロッパにもあり、カルヴィーノはこれをもとに『まっぷたつの子爵』という話を書いている。

ルッキズムの問題
蛙も野獣も最終的には美しい男性へと戻りますが、これが醜い姿だったらどうなるのか。

イヌイットの『かにと結婚した女』ではカニが醜いまま幸せな結婚が成就していて、これは「人間か動物か」ではなく「婿としての役割をはたすかどうか」(イヌイットでは漁をして獲物を捕ることが婿の役割)が問題とされている。

「美しく悲しい別れ」という日本昔話の特徴は、ケルトの伝承とも共通する。

などなど、いろいろとおもしろい分析がされているのですが、タイトルに『異類婚姻譚案内』とあるように、類型と先行する研究が広く紹介されているにとどまりまり、もう少し深いツッコミがほしかったところ。ただ異類婚姻譚入門としては十分なので、河合隼雄をはじめ紹介されているほかの書籍も読んでみたいです。

装丁はHON DESIGN。表紙だけでなく、章ごとに異なるページの飾りもかわいいです。
研究書らしくない軽めのタイトルも読者の間口が広くていいなと思います。