2025/04/14

『アラビアン・ナイト 上』

アラビアン・ナイト 上 (岩波少年文庫 090)

『アラビアン・ナイト 上』
ディクソン 編
中野好夫 訳
岩波少年文庫

今さら世界史の勉強をとろとろとやっているんですが、中東、アッバース朝の時代、ハールーン=アッラシードが『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』の登場人物だということで、読んでみることにしました。
上巻に収録されているのは『船乗りシンドバッドの1回目の航海』から『〜7回目の航海』、『アラジンと魔法のランプ』など、10編。
『アラビアン・ナイト』は小学生くらいのときに子供向けのものを読んだことがありますが、ちゃんと読むのは初めて。
あれ? 『アラジン』ってこんな話だったけ?
民話ということもあり、『アラジンと魔法のランプ』にもいろんなバージョンがあるらしいのですが、ここに収録されているのは、アラジンが悪い魔法使いに騙されるものの、魔法のランプを手に入れ、魔法のランプの力を使ってお姫様と結婚する物語。一目惚れしたお姫様に求婚する過程に話の大半が使われています。
この岩波少年文庫版の編者はE・ディクソン。イギリスの1951年出版を訳したものです。
日本語訳初版は1959年。新版は2001年出版。
前書きによると、ディクソン版の原本はガランのフランス語訳(1821年出版)。
そもそも『千夜一夜物語』はこのガランのフランス語訳でヨーロッパでブームになり、そのとき収録されていたのが264編。
1001編の物語が実際にあると信じられ、あちこちから説話が集められ、追加され、『アラジンと魔法のランプ』も『シンドバッドの冒険』も『アリババと四十人の盗賊』も最初のアラビア語の写本にはなかったそうです。
今まで私が『アラビアン・ナイト』だと信じていたものは、フランス人によってヨーロッパで作られたものだったわけですね。なんてこった!
アラジンは「シナの少年」となっているんですが、舞台が中国とは思えない。ヨーロッパから見ると、中国もペルシアもひっくるめてオリエンタルで同じようなものなのかもしれません。
なので、物語の価値観が中東のものなのか、ヨーロッパが反映されているものなのか、よくわかりませんが、アラジンもペルシアの王様も一目惚れしたお姫様に勝手に入れ上げ、豪華な贈り物をしてほとんど自分勝手に求婚するあたり、金さえあればなんでも手に入るというか、権力を財宝の量で示しているようなところがあり、なかなかドン引きします。
物語だというのもあるけれど、財宝がわかりやすく、宝石や奴隷で表現されるのもなんだか。
(233ページ)
中には、ハトの卵くらいもある大きなダイヤモンドが三百個、これも驚くほど大きなルビーと、長さ十五センチばかりもある棒型エメラルドが、それぞれやはり三百個ずつ、まだそのほかに三メートルもある真珠の首飾りが三十本などが、ぎっしりつまっています。
お姫様にしたところで、すごい美人という以外はどこがいいのかよくわからず、求婚してきた男が気に入らず魔法をかけるかと思えば、父王が結婚しろといえば素直に従う。うーん、これがイスラムなのか?
あと『アラジン』もそうなんですが、よくわからないところで話が長い。
魔法のランプをあっさり手に入れたかと思うと、お姫様に求婚するためにアラジンの母親がお城に通う話が延々と続く。
『ベーデル王とジャウワーラ姫』にいたっては、ベーデル王は鳥にされたり、船が沈没して魔女が支配する国にたどりついたり、(この魔女、気に入った男を40日間もてなして、飽きると動物にするって怖いんですけど。なんのメタファー?)、話があっちこっちへ跳びます。
これはいろんな民間伝承が合成された結果なのかなあ。
というわけで苦戦しながら読んでます。下巻はどうかな。


2025/04/13

『黒革の手帖』

黒革の手帖 上 (新潮文庫 ま-1-47 新潮文庫) 黒革の手帖 下 (新潮文庫 ま-1-48 新潮文庫)

『黒革の手帖』 上・下
松本 清張
新潮文庫

『紙の月』に続いて女性行員横領もの。超有名な作品ですが、ちゃんと読むのは初めて。
1980年の作品で、土地転がし、脱税、不正入学など、バブル前の欲望渦巻く雰囲気がよく出ています。何度もドラマ化されていて、その度に現代風にアレンジされているのだと思いますが、基本的にはこの時代背景があってこそ成り立つ物語だなと思います。
銀行から横領した金で銀座のママに転身したところから物語が始まるので、残念ながら思っていたほど横領の話は出てこなかった。この頃は架空口座や無記名口座が法律で禁止されてなかったことにまず驚きます。
「優生保護法」とかもさらっとでてくるんですが、これが1996年まで存在していたことも今考えると怖い。
バア「カルネ」がある銀座よりも、赤坂のホテルや原宿のビル、医科進学ゼミナール、法務局港出張所などの描写が細かく、そのまま聖地巡礼できそうですが、おそらく現存しない建物が多そうで、今はなき時代の風景が感じられます。
赤坂見附のYホテルのモデルは立地と描写からすると、赤坂エクセルホテル東急(東急赤坂ビル)。2023年に閉館しています。
(上巻276)
元子は、地下鉄の赤坂見附で降りてコンクリートの階段を上った。午後四時半だった。
路上に出た正面に十五階のYホテルがある。一、二階がテナントの商店街で、そのならんだ陳列窓の賑やかさが、車の混雑する大道路を隔てたこちらからもよく見えた。一階のホテル入口はせまく、突き出た飾り日覆い(テント)の下に赤い服のドアマンが立っていた。
主人公の元子は美人というわけではなく、頭がいいというよりは銀行員時代に培った地道な調査と金勘定、度胸の良さで男たちから金を巻き上げていきます。

悪女ではあるけれど、悪どいことをして稼いだ金を奪って何が悪いと、男たちにひとりで立ち向かっていこうとする姿には惚れ惚れするところもあり、彼女が追い詰められて行く後半は読んでいて辛かったです。

せっかく横領した金で小さなバアのママになったんだから、まずはその店を繁盛させてからもっと大きな店をめざせよとは思いますが、お金を稼ぐことより奪いとることに夢中になってしまう感じが哀れです。

色気で男を籠絡し、金を出して保護してもらう波子とは手段が対局ではありますが、結局のところ、元子も波子も男たちのホモソーシャルに踊らされた感があり、嫌な読後感が残りました。
昭和の男性作家による小説ですから、これも時代を反映しているわけですが。
(下巻296)
赤坂から青山通りへ出て、表参道へ折れる。これも赤い尾灯の流れの中だ。対向車の眩しい光の殺到。両側の照明の輝き。銀杏並木が影絵で浮き出ている。その下で人々のそぞろ歩き。女たちの上半身はほとんどが半裸体だった。感覚の馴れた日常的な風景も、こんな気持ちのときには妙に遠く、新しく映る。