2025/05/26

『アラビアン・ナイト 下』

アラビアン・ナイト 下 (岩波少年文庫 091)

『アラビアン・ナイト 下』
ディクソン 編
中野好夫 訳
岩波少年文庫

収録されているのは『アリ・ババと四十人の盗賊』など6編。
『シナの王女』は東洋文庫版だと『カマル・ウッ・ザマーンの物語』というタイトル。
『魔法の馬』は『黒檀の馬』。
『ものいう鳥』は『妹をねたんだ二人の姉』。これは原写本の見つかっていない「孤児の物語」のひとつ。
西尾哲夫『アラビアンナイト』(岩波新書)によると、いずれもガラン版に収録されている代表的な物語です。

しかし、下巻も長かった〜。
基本的に台詞が回りくどくだらだらと長い上に、ストーリーがどんどん別の話へと脱線していってメインの話が一向に進まない。かと思えば苦労して助けた王子がいきなり溺れ死んだり、話の展開にさっぱりついていけなくて苦労しました。

やはり西尾哲夫『アラビアンナイト』によると、これは「枠物語」という形式で、「大物語の中に小物語が埋めこまれ、さらにその小物語がいくつもの支話に枝分かれしていく入れ子式の構造」なのだそうです。

この中では『アリババ』は群を抜いてわかりやすい展開でおもしろい。写本からの翻訳ではなく、聞き書きを再構成したらしいという成立過程の違いでしょうか。

『アリババ』は小学生の頃、劇の会!で演ったことがあるんですが、クラスの中でも華やかで目立つ顔をした女の子がモルジアーナ役で、きれいな衣装で剣の舞を踊ったのを覚えています。

モルジアーナは侍女だと思っていたのですが、「女奴隷」なんですね。彼女の活躍に感謝して、アリババは奴隷の立場から解放しています。
あと、アリババの兄カシムが盗賊に殺されたあと、残された兄嫁とアリババが結婚しているのに驚きました。アリババにはすでに奥さんがいるので、2人目になるんですが、遺産相続とかも含めてよくあることだったんでしょうか。

もともとの『アラビアン・ナイト』にはけっこう際どい場面も多く、子供向け本ではカットされているらしいのですが、『魔法の馬』には王女がインド人にさらわれ、襲われそうになる場面が出てきます。
『漁師と魔物』でも妃が浮気するのがインド人となっていて、『アラビアン・ナイト』はインド民話も多く含まれているはずなのに、なぜインド人が悪役なのか。

『シナの王女』では、王女が拒絶した求婚者たちは首を切られてその首が城門にさらされたり、『ヘビの妖精と2ひきの黒犬』では、回教徒である王子以外の偶像信者たちがすべて石にされたり、いろいろと引っかかる描写もありました。

『アラビアン・ナイト』は翻訳によってもいろんな版があるらしいのですが、岩波少年文庫版でこれだけ読むのに苦労したので、本編はもう十分かな。成立過程の歴史や文化的な側面には興味があるので、もう少し調べてみたいと思います。


以下、引用。

9
「でも、おねえさまたちの本心は、それよりも、もう一度結婚なさりたいというのじゃありません? でも、ほんとにそうなのなら、わたし、やっぱり驚くわ。だって、結婚なすって、ほんとにひどい目におあいになったんじゃない? そんな苦い経験がありながら、また結婚なさろうなんて、わたし、考えられないわ。ほんとにりっぱな夫にめぐりあうなんて、まあ、考えられないほどめずらしいことじゃないの。」

17
わたくしの両親は、ふたりとも偶像信者でしたが、わたくしだけは、幸いなことに、子どものときからついていた家庭教師の女のひとが、信仰のあつい回教徒でした。

『ほんとうの神さまは、たったひとりしかいらっしゃいません。ほかの神さまをみとめたり、拝んだりしないように、よく気をつけなければなりません』

39
『男というものは、とかく威張りたがるものでございます。そして、わたくしは、威張られるのが、大きらいなのでございます』

70
「父上、見も知らぬ男などをお連れになって、びっくりするではありませんか。見も知らぬかたに、顔を見せるというのは、信仰上も、禁じられているはずですわ」

130
そして、かりにもし、王子を裏ぎるようなことにでもなるようなら、いっそ死んでしまおうと、かたい覚悟を決めました。

242
近所の女たちは、習慣にしたがって、葬式の間じゅう、やってきては、いっしょに泣き悲しむのですが、

葬式がすんで、三、四日すると、アリ・ババは、わずかばかりの財産を、ひとりのこされた兄嫁の家へ運びました。
そして、間もなく、アリ・ババと兄嫁との結婚が、発表されましたが、こういう結婚は、回教ではあたりまえのことでしたので、だれもいっこう驚きませんでした。

269
「あすは金曜日で、コジア・フッサンの店も、おまえの店も、大きな店は、みんな休みのわけだな。」

307
新月刀

310
どの大広間にも、絹のつづれ織りが、いっぱいにさがっています。控えの小部屋(アルコーヴ)やソファーなどは、みんなメッカ産織物で張ってあり、ポーチもまた、金糸銀糸入りの、おそろしくごうかな、インド産錦で、張りめぐらしてあります。

322
だって、考えてもくださいませ、これほどまで、妻が夢中になっているその男と申しますのが、おそらく、あなたのお考えになっておられるような人間とは、およそ大ちがいなのでございます。こともあろうに、インド生まれの男なのでございます。

324
四色の魚とおっしゃいましたのは、みんな、もとの市民たちなのでございます。四色になっておりますのは、それぞれ、もとの信仰のちがいでございます。白いのは回教徒、赤は拝火教のペルシア人、そして青はキリスト教徒、黄色はユダヤ人というわけでございます。

341
『アラビアン・ナイト』には、ギリシャなどの地中海世界、アフリカやインド洋の島々、シナ(中国からインドネシア、マレーシアあたりまでと思われます)などを背景にした話も多く含まれています。たとえば、当時のアラブ人にとっては、中国は遠くて不思議な世界でした。そこで、物語に出てくる中国は、まったくの想像上の国となっています。この少年文庫では、アラジンの故郷が中国であることを思い出してください。

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