2022/03/19

『EPICソニーとその時代』

EPICソニーとその時代 (集英社新書)

『EPICソニーとその時代』
スージー鈴木
集英社新書

『アンジェリーナ』、『そして僕は途方に暮れる』、『My Revolution』、BARBEE BOYS、ドリームズ・カム・トルゥーなど、80年代のキラキッラな音楽を生み出してきたEPICソニー。
名曲の分析、レーベルの歴史、プロデューサー小坂洋二、佐野元春インタビューを収録。

冒頭でそれぞれの曲を最初に聴いたときの思い出が書かれているんですが、これよくわかる。最初に聴いたときを覚えているくらいEPICソニーの曲というのは新鮮で衝撃的でした。

私の場合、『そして僕は途方に暮れる』は校内放送。クラスで一番かわいい女の子を捕まえて「これ誰の曲?」とたずねました。特別仲が良かったわけでもないのになぜその子に聞いたのか。彼女なら知ってるはずとなぜか思った。

バービーボーイズは陸上部の後輩でマネージャーの順子ちゃんが「先輩こういうの好きだと思う」ってテープをくれました。最初に聞いたのは『負けるもんか』。

ドリカムは渋地下で短期バイトをしていたときにラジカセから繰り返し流れていた『うれしはずかし朝帰り』。この時もバイト先のかわいい女の子に「誰の曲?」と聞きました。あとからわかったけど彼女がドリカム好きなんでほかのバイトくんが彼女のためにかけていたらしい。

「EPICソニーのアーティストは美男美女」というのはわりと真髄をとらえているのではないかと思います。
私にとってEPICソニーとは「おしゃれな子が聴いているかっこいい音楽」で、そのキラキラ感にあこがれた。

90年代になってキラキラ感がごく普通のものになり、J-POPになっていく過程で失われていってしまうのですが、今聴いてもやっぱり眩しいなあ。

佐野元春がインタビューで素で「キッズたちが」とか言ってるのかっこよすぎ。日常会話でキッズ言って様になるのは彼くらいでしょう。


2022/03/09

『青い眼がほしい』

青い眼がほしい (ハヤカワepi文庫)

『青い眼がほしい』
トニ・モリスン
大社淑子 訳
ハヤカワepi文庫

「秘密にしていたけれど、一九四一年の秋、マリーゴールドはぜんぜん咲かなかった。あのとき、わたしたちは、マリーゴールドが育たないのはピコーラが父親の赤ん坊を宿していたからだと考えていた。」

最初の章のこの冒頭からもう心を鷲づかみ。トニ・モリスンの文章は歌うような美しさがあります。

青い眼がほしいと祈る黒人の少女ピコーラ。黒い肌に青い眼、それが美しいと思ってしまうピコーラ。彼女がかわいいと思うのはシャーリー・テンプルのような少女。

たいして語り手であるクローディアは、大人たちがくれた白い肌、金髪で青い眼のベビードールをばらばらにこわす。
(黒人の女の子に金髪で青い眼の人形をあげるってよく考えると奇妙なことなんですが、昔は日本の女の子もこういう人形に憧れたんですよね。リカちゃんはフランス人と日本人のハーフだし、ジェニーは元がバービーだし。)

「難解な作品」「よくわからなかった」という感想がいくつかあった。たしかに構成は少し複雑ですが、基本的にはピコーラを中心に、彼女の父親、母親、彼女をいじめた黒人の少年たち、白人の少女たち、それぞれの視点が交錯し、彼女を追い詰めたものを描いている。

人種差別を背景にした残酷なストーリーなんですが、読み終わって残るのはほのかな光のような美しさ。
それはトニ・モリスンがあとがきで解説しているような「正午を過ぎたばかりの午後の通りの静けさ」であり、「たんに目に見えるものではなく、人が〝美しくする〟ことのできるもの」、ピコーラにはわからなった「自分が持っている美しさ」のような気がします。

2022/03/03

『魔女狩りの地を訪ねて』

魔女狩りの地を訪ねて: あるフェミニストのダークツーリズム

『魔女狩りの地を訪ねて: あるフェミニストのダークツーリズム』
クリステン・J・ソレ―
松田和也 訳
青土社

『魔女街道の旅』が物足りなかったので、「魔女狩りの地を訪ねるトラベラーズガイド」という似たような構成の本書を読んでみました。
(原題は『Witch Hunt A Traveler’s Guide to the Power and Presecution of the Witch』)

イタリア・フィレンツェから始まり、イタリア・シエナ、ジェノヴァ、ヴァティカン、フランス・ルーアン、パリ、ドイツ、アイルランド、イングランド、スコットランド、アメリカ・ヴァージニア州、マサチューセッツ州セイラム、ニューヨークと魔女狩りの地を訪ねる。

魔女狩りの記念碑が立っていたり、ガイドツアーのテーマになっていたり、拷問具が展示されていたり、魔女術の土産物屋があったり、ホテルになっていたり、どこも観光地化してるんですね。

悪文というか、著者の独特の書き方(観光地を歩いていると、その地で犠牲になった女性の霊が現われてしゃべりだすとか、ときおり挟みこまれる皮肉めいた話し言葉とか)と、なんでこんな漢字を当てているの?という日本語訳もあり、非常に読みにくいんですが、「この場所を訪れて私はこんなことを感じた」という雰囲気は伝わってきます。

なんでもかんでもジェンダーにつなげてしまうのはどうかと思いますが、フェミニストである著者の視点から魔女狩りの歴史が語られているのもおもしろいです。

次々と夫を変えた女性が性愛魔術を使ったとして迫害されたとか、魔女とされた娼婦たちがいたこととか、エロティックで淫らな魔女の絵画に反映された男性たちの欲望とか、魔女とセクシャルは無縁ではないのですね。

特に「老婆=魔女」という、今まで読んだ魔女狩りの本では朧げに書かれていたことが追究されているのも清々しい。

著者は否定的ですがジャンヌ・ダルクのトランスジェンダー説なんかもあったり。

いくつもの論文が引用されており(さすがに欧米だと魔女狩りって研究対象なのか)、天候悪化、宗教的対立、性的差別など、迫害の対象となった女性像が論じられているのも興味深かったです。

2022/02/24

『君さえいれば/金枝玉葉』


懐かしくて見てしまった。

レスリー・チャン、アニタ・ユン、カリーナ・ラウ出演のラブ・コメディ。監督はピーター・チャン。

豪華メンバーなんだけど、残念ながらラブコメ部分がちっともおもしろくないんだな。見始めてから、ああ、そういえばそうだったと。

ゲイネタで笑いを取ろうとするのは当時も無理があったんだけど今見るともう差別ではないかと。当時はまだ公表してなかったと思うけど、同性のパートナーがいたレスリー的にはつらかったんではなかろうか。

それでもアニタ・ユンがレスリーに恋に落ちる瞬間とか、カリーナ・ラウの「私を射止めてね」とか、「走っていけよ」とか、いい場面もちょこちょこあります。

当時大好きだったアニタ・ユン。
そして、レスリー・チャン。
雑誌のインタビューで「この映画のいいところは」と聞かれて、「レスリーとキスできたこと!」と無邪気に答えていたアニタを思い出しました。

2022/02/23

『ハリー・ポッター20周年記念:リターン・トゥ・ホグワーツ』

これが見たくてU-NEXTに登録したのに香港映画や韓国ドラマにうつつをぬかし、そろそろトライアル期間が終了してしまうのでやっと見ましたハリポタ同窓会。

内容自体はもうネット上に公開されているのでそれほど驚きはありませんが、エマがトムに恋したときの話、ダニエルがヘレナに送ったラブレター、ダンスシーンやキスシーンの苦労話、そしてルパートが「僕たちは家族だ」という場面はやっぱり感動的です。

全体的にはちょっと綺麗にまとめすぎている感もあるのと、シェーマスたちの出番が少ないのはもったいない気もします。

グリフィンドール談話室だけでなく、スリザリンとかグリンゴッツ銀行とか魔法学の教室とか、どうやって撮影しているのかと思ったら、ハリー・ポッター・スタジオ・ツアー・ロンドンのセットで撮っているみたいですね。これはたしかにちょっと行ってみたい。

『ハリー・ポッター20周年記念:リターン・トゥ・ホグワーツ』

『韓流スターと兵役』

韓流スターと兵役 あの人は軍隊でどう生きるのか (光文社新書)

『韓流スターと兵役 あの人は軍隊でどう生きるのか』
康熙奉
光文社新書

『星から来たあなた』のキム・スヒョンのプロフィールをチェックしていたら、『星から来たあなた』(2013年)のあと『プロデューサー』(2015年)に出演。2017年から2019年まで兵役。除隊後、『サイコだけど大丈夫』(2020年)で復帰、とありました。

ああ、韓国には兵役があるのだったと、前から気になっていたこちらを読んでみました。

最近だとBTSの兵役が問題になっていますが、こちらは2016年出版なので東方神起あたりの話が出てきます。

韓国の男子は高校を卒業すると徴兵検査を受け、おそくとも30歳までには入隊。21〜24ヵ月の兵役を務め除隊。除隊後も40歳までは毎年数時間の訓練に参加しなければならない。

「ファンにできるのは信じて待つことです」みたいなトーンがちょっと疲れるのと、兵役のシステムはよくわかったけれど、もう少し感情的な辛さの部分が詳しく知りたかった。
(兵役に行く韓国の学生と日本人の彼女の恋愛を描いたコミック『フォーナイン』では、前日まで彼女とイチャイチャ過ごしていた大学生が軍隊に放り込まれる衝撃がよくわかるので、ここらへんをもっと知りたい。)

『ブラザーフッド』(2004年)の監督がインタビューで「韓国の俳優は兵役の経験があるので銃の扱いには慣れています」とさらっと答えていて、そのさらっと感にびっくりしたことがあります。出演していたウォンビンが記者会見で「いつ兵役に行くのか」と質問され(この質問もすごいプレッシャー)、「今回の撮影はよい予行練習になりました」と答えていたり、スター俳優とはいえ兵役がついて回るのかと。
(この本によるとウォンビンはその後2005年に入隊、怪我をして半年で除隊するものの、復帰したのは2009年『母なる証明』。)

文中に出てくるヒョンビンの前向きすぎる入隊インタビューにもちょっと驚きます。彼は除隊後、北朝鮮の軍人を演じた『愛の不時着』が大ヒットしているので、軍隊経験が生かされているとも言えますが。

また、「軍隊はどこに行ってきたのか」が男同士の挨拶代わりになるとか、兵役に行っていないと一人前の男とみなされないあたり、ホモソーシャル的な土壌も感じました。

2022/02/14

『ヘミングウェイ スペシャル』

ヘミングウェイ スペシャル 2021年10月 (NHK100分de名著)

『NHK100分de名著2021年10月 ヘミングウェイ スペシャル』
都甲幸治
NHK出版

卒論を『キリマンジャロの雪』で書いているのでヘミングウェイの作品はほぼ読んでいますが、『老人と海』はテーマが単純で深い読みのできない作品で、おもしろみもないので代表作のように言われているのはなんだかと思っておりました。

しかしながら、『100分de名著』の都甲さんの解説はすばらしく、「パパ・ヘミングウェイ」としてマッチョなイメージのあったヘミングウェイが、最近の研究では性的指向が曖昧であったり、決して強くはない人物であったこと、『老人と海』や『敗れざる者』など弱い者、負け続ける者をくりかえし書いていたこと、キューバを舞台にスペイン語を話す人々の物語であり、ラストに隠されたアメリカ批評など、新しい発見がたくさんありました。

とくにアメリカ文学の系譜、モダニズム文学の影響などからあらためてヘミングウェイを見るというのは勉強になりました。

最近ではフィッツジェラルドと比べると人気のないヘミングウェイですが、今こそ「男らしさ」という固定観念を引きはがして読み返してみるべきというのも納得です。

『美の巨人たち』という番組でムンクの『叫び』は「叫んでいるのではなく叫びを聞いているのだ」という解説を聞いて以来、絵を見るときには知識も必要だと思うようになり、美術展では必ず音声ガイドを借りて見るようにしています。
もちろん、なんの知識もなく、「これは好き、これは美しい」と感じることも大切だと思いますが、より楽しむためには背景を知っていたほうがいい。
今回の『100分de名著』は文学にも同じように解説があってもいいんだなと思いました。