2022/10/26

『くじ』

くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

くじ
シャーリイ・ジャクスン
深町眞理子 訳
ハヤカワ・ミステリ文庫

『ずっとお城で暮らしてる』のシャーリイ・ジャクスンの短編集。
『ずっとお城で』は、メリキャットの無邪気さ、お姉さんの潔癖さなどが次第に不穏な雰囲気を生み出してゆくのだけれど、一番怖かったのは村人たちの理由がよくわからない悪意。
『くじ』の短編はあちこちに人間の悪意が、時にあからさまに、時に目に見えない形で(このほうが怖い)ただよっていて終始ザワザワとした気分になります。
表題作『くじ』が発表されたのが1948年とのことですが、対象を決めたらいっせいになぶり殺しにかかるあたり、今見るとSNSいじめのような残酷さ。この頃からずっと人間は変わらないということでしょうか。
原題が『THE LOTTERY OR, THE ADVENTURES OF JAMES HARRIS』とあるように22篇の短編のあちこちにジェームズ・ハリスという謎の男性が登場します。
訳者の深町さんは彼を「悪魔の化身」としていますが、人は誰しもジェームズ・ハリスであり、彼がつけいる心の隙をもっているような気もします。

以下、引用

21
「なぜかしら、教会がまず真っ先にやられるという気がする──エンパイアステート・ビルよりも先にね。」

「授業でカエサルの新しい章を読みはじめるたんびに、ふっと考えるのよ──ひょっとしてこの章が、わたしたちの習う最後の章になるんじゃないか、って。ひょっとしてわたしたちのこのクラスこそ、カエサルを読む最後のラテン語のクラスになるんじゃないか、って」

99
その横にハンドバッグと『パルムの僧院』とを並べて置いた。この本ははじめの五十ページばかりは熱心に読んだが、あとはただ恰好をつけて持ち歩いているだけだった。

156
「ジョニーったら、いったいボイドになんて真似をさせてるの? この木切れはなんなの?」
「日本兵の死骸さ」と、ジョニーはこともなげに言ってのける。「これを地面に立てて、戦車で押しつぶしてやるんだ」

255
「ブロンテ姉妹、ディケンズ、メレディス、サッカレー」

310
ひとびとは、毎時間を四十五分、毎日を九時間、毎年を十四日ずつ長くしようとして、狂おしい動きのなかへとびこんでゆくかに思えるし、食物は目にもとまらぬ速さで出てきて、あっというまに食べられてしまうので、ひとはいつも空腹をかかえているし、たえず自らを新しい顔ぶれとの新しい食事へと駆りたててゆかねばならない。


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