2025/02/25

『引き出しに夕方をしまっておいた』

引き出しに夕方をしまっておいた (セレクション韓・詩)

『引き出しに夕方をしまっておいた』
ハン・ガン
きむ ふな、斎藤真理子 訳
CUON

ノーベル文学賞をとったことで注目されているハン・ガンの詩集。
もともとハン・ガンは1993年に詩人としてデビュー、作家デビューの1994年よりも早い。
この詩集はデビューから20年経った2013年刊行(日本語訳は2022年)。20年で書いた詩をおおむね執筆年代を遡る形で構成されているという。
韓国ではとても詩が盛んで若い人でもお気に入りの詩集のひとつやふたつあるという。
その背景については巻末の訳者おふたりの対談に詳しい。
日本が80年代に現代詩からコピーライティングの時代に移っていったのに対し、厳しい時代が続いた韓国では表現の武器として現代詩があったと。
(スッとかわされているけど斎藤真理子さんが韓国で詩集を出しているというのは驚き。)
『引き出しに夕方をしまっておいた』というタイトルがもうすばらしいけれど、ここで「夕方」と訳されている「저녁」は、日本語の夕方よりも時間の範囲が広く、夕方と夜、両方をさす単語で、別の詩では「夜」と訳されていたり、訳者おふたりで「これは何時頃だろう」と話し合いながら訳していったそう。
韓国詩以前に現代詩にもあまりなじみがなく、かつハン・ガンなので、全体的にどう受け止めていいのか難しい。そもそも解釈したり理解するようなものでもないのだろうと思われ。それでも小説やエッセイと同じく、死と再生が色濃く感じられます。
白い茶碗に盛ったごはんから
湯気が上るのを 見ていた
そのとき 気づいた
何かが永遠に過ぎ去ってしまったと
今も永遠に
過ぎ去っているところだと
ごはんを食べなくちゃ
「ある夕方遅く 私は」


2025/02/12

『雪女 夏の日の夢』

雪女・夏の日の夢 (岩波少年文庫 563)

『雪女 夏の日の夢』
ラフカディオ・ハーン
脇 明子 訳
岩波少年文庫

「異類婚姻譚」について調べていたときに「異形の女房」の例として出てきた『雪女』。
そういえば小泉八雲、ラフカディオ・ハーンってちゃんと読んだことなかったかも。入門書としてこちらを読んでみました。
有名な『耳なし芳一』、『雪女』のほか、ハーンが再録した日本の不思議な物語12編とエッセイ4編を収録。
もととなる原話と比較したわけではないですが、物語はハーン独自の視点や語り口でリメイクされているのではと思われます。そもそも物語のセレクトからしてハーン独自のフィルターが入っているわけですし。
エッセイ『夏の日の夢』に『浦島太郎』、同じくエッセイ『神々の集う国の都』に『子育て幽霊』の話が出てきます。これらの物語にある「哀れみ」や「哀しさ」のようなものにハーンは強く惹かれていたようです。
『遠野物語』なんかもそうですが、日本の伝承物語ってどこか暗さとか悲しさを含んでますね。
『東洋の土をふんだ日』、『盆踊り』、『神々の集う国の都』、『夏の日の夢』。エッセイ4編は抄訳ですが、どれもとても美しい文章で日本の印象がつづられています。
ハーンがだいぶ盛っているところもあると思いますが、明治時代の日本はかくも美しかったのか。異国人の眼で見るからこそわかる美しさもあったのかと思います。
「日本の町の通りは漢字で飾られているから絵のように見える。これを英語で置き換えたところを想像するとゾッとする」といったような文章があるんですが、日本人は英語で書かれた看板を無意味にかっこいいと思ってしまうんだから笑ってしまいます。
2025年秋の朝ドラ『ばけばけ』は小泉セツが主人公だそうですが、ハーンに日本の物語を紹介した女性に興味がわいてきたので、ハーンのエッセイとともにちゃんと読んでみたいなと思います。


2025/02/11

『カザフ刺繍』

カザフ刺繍 中央アジア・遊牧民の手仕事 伝統の文様と作り方

『カザフ刺繍』
廣田千恵子、カブディル・アイナグル
誠文堂新光社

『大乙嫁語り展』のとき、ショップで販売されていて気になっていたのがこちら。

「中央アジア」とひとくくりにいっても広く、ここで紹介されているのは、モンゴル国バヤン・ウルギー県で暮らすカザフ人による伝統文様と刺繍技法です。

大きな木枠に布を貼って、かぎ針で刺していく刺繍技法は、自分で真似するにはレベルが高いですが、伝統文様や模様、モチーフの刺し方が掲載されているので、刺繍の心得がある人であればチャレンジできそう。

花、鳥といった文様のほか、羊、ラクダ、麦のモチーフがあるところが遊牧民族らしい。
「腎臓文様は多くの家畜を屠ることができる状態を想起させることから、家族に幸せをもたらすものとされる」というのもおもしろいです。

天幕型住居「キーズ・ウイ」の内部を覆う、壁掛け布「トゥス・キーズ」。
美しい布が何枚も飾られているのは圧巻ですが、家の中を美しく装飾する女性が「理想的なカザフの嫁」で、身の回りを飾ることができない女性は「仕事ができない」とみなされるとか。
カザフ人に生まれなくてよかったと思いつつ、これもひとつの文化ですね。

『乙嫁語り』でも刺繍の苦手なパリヤさんが嫁入り道具を作るのに苦労してましたね。(布仕度がおわらないと嫁に行けない。刺繍の出来で嫁として評価される。)

著者のひとりであるアイナグルさんは、1992年の社会主義体制の崩壊により、生きていくために自分でビジネスを始めるしかなくなり、カザフ刺繍の専門店をオープン。
女性たちの収入と伝統文化の存続のためにカザフ刺繍を伝える活動をしているということで、ここらへんにも刺繍素敵!だけではすまされない社会事情が現れています。