2025/07/29

『珈琲の世界史』

珈琲の世界史 (講談社現代新書)

『珈琲の世界史』
旦部 幸博
講談社現代新書

『カフェの世界史』が物足りなかったので、そちらで紹介されていた『珈琲の世界史』を読んでみました。

・エチオピアからイエメンへ、紛争から逃れた人々がコーヒーの伝播に関わっていたのではないかという説
・イスラーム圏からヨーロッパへのコーヒー伝播ルート
・ボストン茶会事件はアメリカ独立だけでなく、紅茶からコーヒーへの転換となった
・イエメンのコーヒーノキの苗木や種子は密かに盗み出され、世界各地で栽培が始まる
・イエメンのモカ港は現在は廃墟となり、ブランド名の「モカ」が残っている。
・コーヒーの増産を支えたのは植民地や奴隷制
・奴隷解放後、ブラジルのリオのコーヒー栽培は破綻し、サンパウロは移民による労働力で栄えた
・さび病によってスリランカのコーヒー栽培は崩壊し、廃農園をリプトンが紅茶栽培に転換した
・ブラジルとアメリカのコーヒー価格をめぐる争い
・「コモディティコーヒー」の品質低下に対する「スペシャルティコーヒー」の誕生
・スターバックスに対するアンチテーゼとしての「サードウェーブ」
などなど。

コーヒーの歴史とは略奪の歴史であり、イギリス、フランスなど先進国のコーヒーブームを支えたのは植民地だったという史実がなかなか重い。大航海時代がなかったら、現代までコーヒーが飲まれることもなかったのかも。

ブラジルとアメリカの市場経済がコーヒー豆の品質を低下させるとともに、スペシャルティコーヒーを産み出したというのも興味深い。

特に、日本のコーヒー文化が独特で、「味にこだわる一杯淹て」が世界的にもめずらしいものだったというのがおもしろかったです。


2025/07/11

『ナイルに死す〔新訳版〕』

ナイルに死す 新訳版 (ハヤカワ文庫)

『ナイルに死す〔新訳版〕』
アガサ・クリスティー
黒原 敏行 訳
クリスティー文庫

ポアロシリーズ15作め。1937年の作品。
原題は『Death on the Nile』。

『オリエント急行の殺人』と並ぶ人気作ですが、読むのは初めて。
ナイル川をさかのぼる豪華客船なんて猛暑に読むにはちょうどいいだろうと思いましたが、これがほんとおもしろかった。

クリスティー作品によく出てくる男女の三角関係。従来は殺人事件の背景や人間模様の一部だったりしましたが、本作ではこの三角関係こそがストーリーのメイン。
全540ページの250ページくらいまで事件が起こらないのですが、もうこのまま何も起こらなくても十分おもしろい。

作中のカルナック号はサヘル島から第二急湍まで行って帰ってくる7日間のツアー。
1970年にアスワン・ハイ・ダムが完成したため、第二急湍は水没しているのですが、だいたいワディ・ハルファのあたり。
作中でも存在感を放っているアブ・シンベル神殿はダム建設にあたり移築されてるんですね。
エッセブアという地名も出てきますが、これは今はないのか地図では見つけられず。

カルナック号のモデルとなったクルーズ船「スーダン号」は今でも現役。現在はルクソール〜アスワンの5泊6日で1490〜2700ユーロ!(片道です)
カタラクト・ホテルも「ソフィテル レジェンド オールド カタラクト アスワン」として現存。「アガサ・クリスティ・スイート」という部屋もあるそうです。
クラシックな内装といい、当時も上流階級のための優雅な旅だったのでしょう。

このゴージャスな旅を特別なことでもなく、たいして楽しんでいるようでもなく、受け入れている人々の描写がむしろ旅情があって楽しいです。何度も映像化されているのも納得の映えそうなストーリー。

殺人事件現場にしては不謹慎すぎるほどロマンスも発生しますが、個人的には善人すぎる癒しのコーネリア嬢がお気に入り。

(227ページ)
「もちろん人間は平等じゃないです。平等だとしたら説明のつかないことばかりだもの。たとえばわたしは、なんかこうぱっとしない器量で、悔しいと思ったこともあったけど、もう気にしないことにしてます。」

基本的に若い娘さんには紳士なポアロ。リネット、ジャクリーヌ、ロザリー、それぞれにかける言葉が優しい。

『ひらいたトランプ』のレイス大佐も登場。
『青列車の秘密』のルーファス・ヴァン・オールディンも名前だけ登場。

2020年の新訳版。全体的には非常に読みやすいのですが、「博労」、「ピナフォア」、「セコティーン」といった言葉が特に説明もなしに使われているのがちょっと気になりました。

ミスリードがわかりやすいので今回は犯人も当たりましたが、殺人事件そのものよりも、コーネリア嬢を含めていくつかある三角関係の行方が気になり、最後まで楽しめました。

(483ページ)
「じゃ、どうしてわかったんです?」
「わたしがエルキュール・ポアロだからです!」