2019/10/20

『菜食主義者』

菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

『菜食主義者』
ハン・ガン
きむ ふな 訳
クオン

ハン・ガン、3冊目。
『すべての、白いものたちの』、『そっと 静かに』はエッセイ集なので、彼女の小説はこれが初めて。

彼女が心温まる物語を書くだろうなどとはもちろん思っていなかったんですが、予想以上に壮絶で、中編三作のそれほど長くない小説のわりには読むのに時間がかかりました。

『菜食主義者(ベジタリアン)』という言葉のやわらかさとは裏腹に、主人公ヨンへは肉を食べることを拒絶し、植物になりたいと願い、やがては食べることも放棄する。

訳者あとがきでは「私たちの中でうごめいている動物性と静かに揺れる植物性との葛藤」と説明されているのだが、そんなことを言われてもよくわからない。

三作の中ではヨンへの姉の視点から語られる『木の花火』が比較的共感しやすいのですが、ハン・ガンの描く「なにかを失った人の孤独」というものに私は強く引かれるようです。

ここ近年、注目されている韓国文学ですが、「新しい韓国の文学」シリーズ第一作としてこの作品を日本で出版しているクオンの活動はすばらしいですね。


2019/10/07

『そっと 静かに』

そっと 静かに (新しい韓国の文学 18)

『そっと 静かに』
ハン・ガン
古川綾子 訳
クオン

『すべての、白いものたちの』に続いてハン・ガン2冊目。
『すべての、白いものたちの』は韓国2016年、日本2018年出版の最新作。『そっと 静かに』は2007年韓国出版。ちゃんと時系列で読もうと思って日本語で読めるハン・ガンいちばん古い作品を選びました。

『そっと 静かに』は音楽にまつわるエッセイ集。音楽にまつわる思い出や彼女が大切にしている曲、彼女自身が作詞した曲などで構成されている。ハン・ガンの小説をまだひとつも読んでいないのだけれど、作家の前に詩を書いていたという経歴に納得。

貧しかったためにピアノを習うことができず紙の鍵盤を叩いていた子供時代。家計に余裕ができた中学生になってから「ピアノを習え」と言われ、「もういいのだ」と答えたら、「お前が習いたくなくても父さんと母さんのために一年だけ習ってくれ。でないと恨になる」と言われた思い出。

部屋を閉め切って『レット・イット・ビー』を大音量でかけて幼い娘と踊って泣いた思い出。

などなど、なかなか壮絶な話がつづられている。当然ながら韓国の歌が多いので、いろんな想いを共有できないのだが、歌というのは個人的な思い出に強く結びついてこそ大切なものになるんだなと思う。

しかし、韓国の歌手に自死した人が多かったり、海外の歌手でも社会運動に関係する人の歌が多かったりするのは彼女の好みというか、ある時期に彼女が必要としたのがそういう歌だったのだろうか。

おそらく比較的のんびりとつづられているようにみえるこのエッセイや詩にもどこか何か失った人の喪失感があり、そこに惹かれます。


2019/09/27

『すべての、白いものたちの』

すべての、白いものたちの

『すべての、白いものたちの』
ハン・ガン
斎藤真理子 訳
河出書房新社

『82年生まれ、キム・ジヨン』で韓国文学に興味がわいたので、@mountainbookcaseさんが紹介していて気になっていた『すべての、白いものたちの』を手にとってみる。

短編集というかエッセイ集というか全編、美しい詩のような作品。美しいといってもオシャレな美しさではなく、静謐で哀しみを湛えた美しさ。何枚か掲載されている写真(Douglas Seok とクレジットされている)のような、コンクリート打ちっ放しの、ガランとした、殺風景で無機質な冷たいモノトーンの美しさ。 

@mountainbookcaseさんが紹介していたのは「タルトック」と「白い石」の一節なのだけど、特別な言葉は使われていないのに妙に心に残っていた。適当にページを開いて読んでみるとどのページも何かしらが心に残る。

一気に読み飛ばしてしまうのが惜しくて、一日に数ページずつ、大切に読みました。

韓国語はまったくわからないので、文章の美しさ、力強さに、斎藤真理子さんの訳がどれだけ貢献しているのか判別できないが、ハン・ガンという作家の作品をもっと読みたいと思う。

5種類の紙が使われていたり、天(ページの上の部分)が切り揃えていなかったり、装丁も静かに凝っている。

表紙の写真はベビー服だと思うが、生ではなく死を象徴しているところに愕然とする。