2025/11/11

『ポアロのクリスマス〔新訳版〕』

ポアロのクリスマス〔新訳版〕 (クリスティー文庫 エルキュール・ポアロ)

『ポアロのクリスマス〔新訳版〕』
アガサ・クリスティー
川副 智子 訳
ハヤカワ文庫

ポアロシリーズ17作め。1938年の作品。
クリスティー文庫のポアロシリーズは34作あるので、やっと半分です。
『ポアロのクリスマス』は2003年の村上啓夫訳を2年前に読んでますが、順番にしたがって新訳版も読んでみました。
細かいところまでは覚えてませんが、全体的にセリフがやわらかく読みやすくなっている印象です。

(村上訳)
「あなたは、大人の節度ある眼でそれを回想するかわりに、子供の判断でそれを見ようとなさるからですわ」

(川副訳)
「過去に起きたことを当時の少年の気持ちで判断してはだめ。もっと穏やかに、おとなの目で振り返らなくては」

さすがに犯人もトリックも覚えているので、伏線回収しながら読みましたが、いや、これ、犯人わからないでしょ。
森昌麿の解説に前作『死との約束』から「家庭内の不協和音」、「殺されねばならない存在」という要素が引き継がれつつ、中近東ではなく、英国のお屋敷に原点回帰している、とありましたが、これはなるほど。
「殺されねばならない存在」が殺されることによって「家庭内の不協和音」が解消され、ハッピーエンドになってるんですよね。

ミドルシャー州の警察本部長ジョンスン大佐は『三幕の殺人』からの再登場。思いっきり『三幕の殺人』の犯人がネタばらしされています。『もの言えぬ証人』など、ほかの作品でもありましたが、当時はアガサ・クリスティー作品を順番に読んでいて当然だったんでしょうか。

(134ページ)
「クリスマスには、善意の精神なるものがあります。それは、おっしゃるように、〝するべきこと〟なのでしょう。昔の仲たがいが修復され、かつて意見の合わなかった者同士が、一時的にせよ和解するべきなのでしょう」

「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一堂に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから! クリスマスにはとてつもなく大きな偽善が生まれます。」

(378ページ)
「このクリスマスは笑って過ごすつもりだったの! イギリスのクリスマスはとっても愉しいって、本で読んだから。焼きレーズンを食べたり、炎につつまれたプラム・プティングが出てきたり、薪に似せたユール・ログっていうケーキもあったりするのよね」


以下、引用。

20
「だれだってかならず死ぬわ! そうでしょ? それに、あんなふうにいきなり空から爆弾が落ちてきたら──ズドーン!って──どうしようもないじゃない。いま生きてた人が、つぎの瞬間には死んでるのよ。それがこの世界で起きていること」

79
「昔より気品が増したよ! そういえば、アルフレッドのやつが結婚したのは、征服王ウィリアム一世とともにイングランドへ渡ってきた人々を祖先にもつ娘だと聞いたっけ」
リディアは微笑んだ。
「先祖をたどればそうなんでしょうけど、一族の繁栄はむしろあの時代に終わっていますわ」

83
「人間はみんなよこしまです。尼僧さまがそうおっしゃってるもの。だから人はよこしまな人間のために祈らなければならないんだって」

84
「いいえ、どうしてショックを受けなくちゃいけないの? 男はいつだって女を求めるものよ。わたしの父もそう。妻が何度も悲しい思いをするのはそのためだし、教会にかよってお祈りするのもそのためでしょ」

95
「もう何年も弾いていないからな。母がよくこれを弾いていた。メンデルスゾーンの『無言歌集』のなかの一曲だ」

106
「知ったことか。どこかのモデルの行列ででも拾ってきたんだろうよ。」

122
近ごろの従僕ときたら、どうしてこう役立たずなんだ! あのような身ごなしでは馬丁とからん!

130
「遠慮なくやってくれ」と彼は言い足し、招き入れた客のかたわらに置かれた酒瓶台(タンタラス)とコーヒーサイフォンに注意をうながした。

131
ミドルシャー州の警察本部長、ジョンスン大佐
「あのカートライト事件には度肝を抜かれたものだ」この家の主人は過去の事件を振り返った。「あの男には度肝を抜かれた! 品のいい物腰で魅力たっぷりの男だった。あの男がきみとここへ来たときには、きみもわたしもすっかり騙されてしまった」

134
「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一堂に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから! クリスマスにはとてつもなく大きな偽善が生まれます。なるほどそれは尊敬に値する偽善、しかるべき理由のもとで(プル・ル・ボン・モティーフ)おこなわれる偽善でしょう。そこまではわかります(セ・アンタンデュ)。でも、偽善は偽善です!」

139
「むろん、お噂はかねがねうかがっていますよ、ポアロさん。わたしの記憶が正しければ、何年かまえにもこちらへおいでになりましたよね。サー・バーソロミュー・ストレンジが亡くなったときに。毒殺事件でしたね、ニコチンによる。」

152
「以下は使用人です。執事のエドワード・トレッサリアン、従僕のウォルター・チャンピオン。料理人のエミリー・リーヴズ。キッチンメイドのクィーニー・ジョーンズ、ハウスメイド頭のグラディス・スペント、第二ハウスメイドのグレイス・ベスト、第三ハウスメイドのビアトリス・モスコーム、仲働きメイドのジョーン・ケンチ、そして従者のシドニー・ホーベリー」

246
「はい──ロイヤルウースターの古いカップを。わたくしは十一年間、洗ってきて、ただのひとつも割ったことがございませんのに」

285
「つぎはジョージ夫人です! クリームが好きな猫に負けないぐらい金が大好きです。」

330
「そのような型にはまった返事をしなければならないのでしょうか?」
リディアは言った。
「わたしは型にはまった女ですから」

373
「い、いや、ちがう。きみはわかっていない。親父が死んだからじゃないんだ。親父に対する子どもじみた、ぼくの憎しみが死んだからだ……」

377
「世間は女にはひどく残酷なものよ。女は自分でできることをやらなくてはならないの──それも若いうちに。年老いて醜くなってしまったら、だれも助けてくれないんだから」

378
「このクリスマスは笑って過ごすつもりだったの! イギリスのクリスマスはとっても愉しいって、本で読んだから。焼きレーズンを食べたり、炎につつまれたプラム・プティングが出てきたり、薪に似せたユール・ログっていうケーキもあったりするのよね」

382
「たくさんの窓がありますね。家には目があるのですよ、マドモアゼル──耳もあります。これほどまでにイギリス人が開いた窓を好むのは、じつに残念です」

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