『ニューロマンサー』ウィリアム・ギブスン
黒丸 尚 訳
ハヤカワ文庫
『ニューロマンサー』を読んでいると言ったら、「あの表紙のかっこいいやつね」と言われました。現在のハヤカワ文庫版の表紙は木山健司によるもの。
ちなみに2016年に発売されたイギリスの出版社ゴランツ版のカバー・デザインもめっちゃかっこいいです。
どちらもデジタルなパッチワークみたいで、ひと目見ただけでは何を表現しているのかわからない。それはそのままこの作品世界のようです。
「サイバーパンクの代名詞的作品」と言われるように、『ブレイドランナー』的な暗い空に覆われた千葉シティから始まり、体にぴったりと沿う黒い衣装に身を包んだ草薙素子のようなヒロイン、電脳世界に没入(ジャックイン)する主人公、光を帯びた恒温ファームのベッドなどなど、サイバーワールドな世界観にしびれます。
といってもそれは『攻殻機動隊』とか『マトリックス』とか、『ニューロマンサー』に影響を受けた映像作品を見ているからある程度頭の中で映像化できるのであって、インターネットでさえまだ概念のみだった1984年にこの作品が書かれていることに驚きます。
(ギブスンが未来を予言したというより、現実がSFの世界観を模倣したようなところもありますね。)
500ページという長編なのに加えて、この世界観を咀嚼していくのがなかなか難しく読むのに苦労しました。
たとえば「〝フラットライン〟は、アーミテジがこっちのホサカを消したと言っていた」というセリフ。
フラットラインは伝説的ハッカーの呼び名であり、故人であるが彼の思考は「構造物」としてデータ化されており、主人公とともにハッキングを行なう。
アーミテジは主人公の雇主であるがその正体は元軍人コートで、冬寂(ウィンターミュート)というAIに操られている。
ホサカはメーカー名でホサカ製コンピューターのこと。
というのを理解してないと何言ってるのかわかんないんですが、こんな感じで固有名詞がバンバン出てきます。
後半では、主人公ケイスとフラットラインの会話、モリイの視覚映像、冬寂(ウィンターミュート)が送り込んでくる映像、ケイスの実体が存在するコンピューターの前と目まぐるしく場面が転換(フリップ)するので、今読んでいるのがいったい誰の映像なのか混乱してきます。
抽象的で哲学的なところもあり、結局何がどうなったのかよくわからないままに読み終わったのですが、流れるようなサイバーワールドのイメージは圧巻でした。
故人の思考がデータ化されているといってもまだインターネットのない時代なので、「構造物」はおそらくHDD的なものに収納されていて、1980年代だからそうとう重いはずのそれをハッキングする場所まで抱えて移動していたり、ソニーのモニターとか、サンヨーとか富士通などの名称がでてきたり、日本人の忍者が目をやられても「禅で」弓を射ることができたり、いろいろ笑える日本観があったりもします。
『マトリックス』は直接『ニューロマンサー』の影響を受けているので(もともとは『ニューロマンサー』の映画化企画だったとか)、アーミテジはローレンス・フィッシュバーンのイメージで読みました。