『カーディとお姫さまの物語』
ジョージ・マクドナルド
脇明子 訳
岩波少年文庫
『お姫さまとゴブリンの物語』の続編、のはずなのですが、これはもう別の物語。
ゴブリンというわかりやすい悪と戦っていた前作に対し、ここでは悪は人間の心にある。
出てくる人間のほとんどが悪い心をもっていて、そんな人間の中には獣がいる。一方で醜い獣たちの中には純粋な子供の心がある。
「ある哲学者たちが言っていることだけど、人間は昔、みんな獣だったって話、聞いたことある?」
「人間はみんな、ちゃんと気をつけていないと、山を下って獣たちのところまでおりてしまうってことなのよ。実際、一生のあいだ獣たちのほうへおりていくばかりの人たちが、ずいぶんいるわ。みんな以前はそのことを知っていたんだけれど、もうずいぶんまえにすっかり忘れてしまったのよ」
(102ページ)
解説によると、この物語にでてくる奇怪な獣たちはダーウィンの『種の起源』(1859年)の副産物ではないかということで、たしかに「獣が人間になる」、「人間が獣になる」あたりに影響がみられる気がします。
タイトルにある『お姫さま』は前作のアイリーン姫というより、おばあさまの方をさしているようです。このおばあさまが『北風のうしろの国』の北風のようにカーディを導いていくのですが、また言うことが難解なんだな。
全編ネガティヴ、哲学的で難解、暗くて不条理です。なによりもエンディングが衝撃的でした。
これも解説によると、イギリスの急速な経済発展によって起こった古い社会や道徳の崩壊にマクドナルドが失望していたからではないかということです。
作品が連載されたのが1877年、出版されたのが1882年。イギリスは19世紀後半ヴィクトリア朝の時代です。
それをふまえると、城の家臣たちや街の人々の腐敗ぶりも理解できなくはないんですが、カーディのまっすぐな心がそれに打ち勝つという単純な話ではないのがまた難しい。





