『少年が来る』
ハン・ガン
井手俊作 訳
クオン
梨泰院の事件のあと、そういえばまだこれを読んでいなかったと手にとってみました。
1980年に起きた光州事件をテーマにした小説、なのだがノンフィクション以上に生々しい。死者となった少年、生き残った少女、章ごとに変わる人物たちとともに、事件とその後を追体験しているような感じ。
韓国文学の翻訳者として知られる斎藤真理子さんが『少年が来る』の読書体験を水泳に例えていたけれど、深いところに潜っていくような息苦しさがあります。
ハン・ガンの文章は残虐な場面でも静かで、ときに美しくもあるのだけれど、引き込まれると同時に、またあそこまで潜って行かなければいけないのかと思うと一日一章ずつしか読み進むことができませんでした。読んだあとも水面に顔を出して呼吸ができるようになるまでに時間がかかる。
辛いけれどここまでの読書体験を与えてくれる文学はなかなかないので、これを味わうためだけにでも読む価値のある一冊。
光州事件については名前こそ聞いたことがあったものの、詳細についてはまったく知らず。知らなかったことにもショックを受けました。
40年前はたしかに過去ですが、1980年といえば、日本では松田聖子がデビューした年で、決して昔というほど昔ではない。天安門並みの事件が隣の国で起こっていたのにそれをまったく知らなかったこと、韓国国内でも1987年まで事件について語ることができなかったこと、それからまだ40年しか経っていないということ。
現在は日本よりもファッショナブルで、キラキラなイメージさえある韓国ですが、日本の戦後50年間くらいを韓国は10年ほどで一気に変化したようなところがあり、そのアンバランスさや歪みみたいなものを時々感じます。
梨泰院のような事件は日本でも起こる可能性があるのですが、どこかその歪みから生じているような気がしてしまうのです。
※
前田エマさんの書評でBTSの『Ma City』に光州事件について歌っている部分があると知りました。韓国の若者たちは光州事件を背負って生きているのだなと。
https://note.com/cuon_cuon/n/n3d5e6e37e5b6







