2023/12/13

『ポアロのクリスマス』

ポアロのクリスマス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

『ポアロのクリスマス』
アガサ・クリスティー
村上啓夫 訳
ハヤカワ文庫

ポアロシリーズ17巻目。1939年の作品。
少し順番が飛びますが季節的にこちらにしてみました。
(このシリーズは再読も多いので、なるべく新訳で読もうと思っているのですが、2023年11月に川副智子による新訳版が出ていることにあとから気がつきました。)
章のタイトルが「第一部 十二月二十二日」、「第二部 十二月二十三日」となっている時点でもうワクワク。
クリスマスに一族が集まることでそれまでは隠されていた感情が表面化し、引き起こされる人間模様というクリスティーお得意のストーリー展開。
今回は若くて美しい娘さんより、美人ではないけれど上品で賢くて根性のある奥様方が素敵でした。
そして紳士たちは食堂でポートワイン、婦人たちは客間に移ってコーヒー、というのがいいよね。このわざわざ部屋を移動するという感じ。
残念ながらクリスマスは殺人が起こるのでクリスマスディナーは出てきません。
「あたしが本で読んだイギリスのクリスマスはとても陽気で楽しげなんですもの。焼いた干しブドウを食べたり、すばらしいプラム・プティングをつくったり、それからユール・ロックなんてものもあって……」
今回も犯人はまったくわかりませんでしたが(そもそもわかるように書かれていない)、登場人物たちがそれぞれの葛藤を胸に秘めながら交わす会話というのがもうおもしろくて一気読みしてしまいました。
『クリスマス・プティングの冒険』も読みたいなあ。

2023/12/05

『アンの青春』

アンの青春 (文春文庫)

『アンの青春』
モンゴメリ
松本侑子 訳 
文春文庫

松本侑子新訳版のアンシリーズ第2巻。
原題は『Anne of Avonlea』。
第2巻『アンの青春』と第3巻『アンの愛情』の邦題は逆の方があっていたんじゃないかと昔から思っていて、順番が混乱するんですが、こちらはアンがアヴォンリーで新米教師として過ごす2年間の物語。
自分メモ的に整理しておくと
アンがグリーン・ゲイブルズに来たのが11歳のとき。
アヴォンリーの学校を経て15歳のときにシャーロットタウンのクイーン学院に進学。
クイーン学院は教師になるための師範学校で、通常は2年かけて教員免許をとるところ、アンとギルバートは成績優秀のため1年コースで卒業。
マシューの死去にともない大学進学をあきらめ、16歳でアヴォンリーの教師になる。(←イマココ)
さらに自分メモ的にそれぞれの学校の先生
・アヴォンリー
アン→ジェーン・アンドリューズ
・ホワイト・サンズ
ギルバート・ブライス
・カーモディ
プリシラ・グラント→ルビー・ギリス
ホワイト・サンズやカーモディがアヴォンリーからどれくらい離れているのか不明ですが、週末や夏休みには帰省できるけど毎日通うのは難しい距離のようです。
『大草原の小さな家』のローラも15歳で教師になってます。アンが教師になったとき、アンが教える上級生たちはちょっと前まで一緒に勉強していた子供たちなんですよね。モンゴメリ自身は19歳で教師になっていますがみんな若い。
新しい隣人ハリソンさんのスキャンダル、アンクル・エイブが預言した大嵐など、村岡花子版の外伝短編集『アンの友達』、『アンをめぐる人々』のようなアヴォンリー村物語的な側面もあります。
そして村岡花子版でも何度も読んでますがミス・ラヴェンダーがやっぱり素敵だな。30代くらいのイメージだったけど45歳なのか。
村岡花子版では「山彦荘」、松本侑子版では「こだま荘」の石の家の名前が「エコー・ロッジ」だと初めて知る。
基本的なストーリーは村岡花子版でおなじみなんですが、花の名前とか細かい自然描写が松本侑子版の方がわかりやすく頭の中で風景を再現しやすい気がします。
へスター・グレイの庭は黄色と白の水仙に埋もれてるんだとか。
子供の頃はラヴェンダーの花や香りが今ほど具体的にイメージできてなかったというのもあるかもしれません。
あとリンドおばさんとマリラの名言多し。
「マリラ、失敗したらどうしよう!」
「たった一日で、大失敗なんかできないよ」
「マリラ、私、頭が変なように見える?」
「いいや、いつもほどじゃないよ」
今回も解説が100ページほどあります。細かい引用なんかはそこまでチェックしなくてもと思うものもありますが、当時は暗誦が普通に行なわれており、欧米小説では聖書やシェイクスピア、古典の引用が一般的だったという解説は納得。
ポール・アーヴィング、双子のデイヴィとドーラ、アンソニー・パイ、いずれも幼くして親を亡くしている子供たちで、モンゴメリ自身が反映されているのではという指摘もなるほどと思いました。

2023/12/01

『追想ジャーニー』

2022年公開。高橋和也出演作。
※ネタバレ含みます。

18歳の高校生と48歳のおじさんが過去の分岐点をふりかえる追想の旅に出る物語。

脚本、演出、演技ともに舞台色が強いので映画ならではの場面がもう少し欲しかったところではありますが、高橋和也目当ての私としては表情や目の演技をアップで堪能できるのは嬉しいところ。

ほとんどのシーンが舞台上で展開されるのは予算の都合というのもあるだろうけれど、この舞台が「時空がアレしてる」ところでそれ以外の部屋とか病室なんかは過去と未来の現実なのかなと解釈。

過去に戻って未来を変えるストーリーは最近だと『東京卍リベンジャーズ』あたりでも見られる定番ものですが、途中から役割が逆転して過去の自分が未来の自分を変えていくのがおもしろい。

高橋和也は少年の瞳をしたおじさんなので高校生と並んでも違和感なし。無理を承知でいうと18歳の文也を若き日の高橋一也に演じてほしかった。人生なめてる感じの藤原大祐くんも良かったけど、これ2人のどちらにも容貌よせてないんですよね。

脚本も全体的にゆるいというか余白が多く、お母さんとの確執はもっと描いておくべきなんじゃないかとか、なぜ彼は売れない役者を続けているのか、このジャーニー自体が夢なのかなんなのか設定があいまいだと思ったりもするのだけど、あまりそれをやると語るに落ちるからなあ。

そもそも過去の分岐点を振り返るというのはSF設定なしでもできることなので、ラストは人違いではなく、過去の母への態度を改めたことで未来の母との関係が修復された結果なのではないかと勝手に解釈しました。

脚本に余白があるぶん、ここらへんは見る人、見るタイミングや感情によって解釈がいくらでも変わりそう。

ひまり役の伊礼姫奈がちょっといいなと思ったら『推し武道』の舞菜ちゃんであり『大奥』の祥子姫だった。役によって全然雰囲気変わるのね。18歳のくるみ役、髙石あかりも要チェック。


2023/11/20

『連鎖街のひとびと』

at 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

井上ひさし脚本によるこまつ座公演。
(そもそもこまつ座が井上ひさし作品だけを上演しているというのも今回初めて知りました。すみません。)

終戦直後の満州、大連が舞台。
今回は予習なし。歴史的にはなかなか難しい設定なのですが、セリフの中でわかりやすく状況が説明されていました。
全編喜劇で笑える作品なんだけど、彼らの状況はどん詰まりで、芝居をすることが希望であり、生きる支えでもあるんですね。

幕が上がって最初のセリフを言う前に和也さん演じる塩見さんが泣きそうな顔でふっと笑うんですが、もうその表情にやられます。
あとコーラスを歌い終わったときの顔がまた良かった。
こういう細かい表現も含めて丸ごとダイレクトに楽しめるのは舞台ならでは。

嫌な奴だった市川新太郎が芝居の稽古を通して変わっていって「シベリアでも芝居をするさ」ってセリフにグッときました。

あんなに書けなかった脚本がひとりの若者を救うためには書けるんだなあというのもおもしろい。和也さんが一彦役だった初演も見てみたかった。

モリエールとチェーホフはさすがにわからないけど、ギリシャ悲劇とか高田馬場とか演劇のパロディが詰め込まれている構成も楽しかった。

こまつ座だけに年配の落ち着いたお客様も多かったです。
トークショーのときにお隣りになったおばさまは「お話がおもしろいのでこまつ座は何度も見に来てる」そうで、私が初めてだと言うと「どなたかお目当ての方が?」と聞かれたので正直に「高橋和也さんの舞台が見たくて」と答えました。
ラフなセーターに着替えて登場した和也さんのナチュラルなかっこよさに私が息を飲んでいると、おばさまが「かっこいいですね」とささやいてくれました。
「でしょでしょ」という気分になって(何様)この日これがいちばん嬉しかったのです。


2023/11/18

『五十八歳、山の家で猫と暮らす』

五十八歳、山の家で猫と暮らす

『五十八歳、山の家で猫と暮らす』
平野恵理子
亜紀書房

平野恵理子さんの名前はweb記事で見かけて「小淵沢の山荘に住んでいるイラストレーターさん」くらいの認識はありました。
2冊めのエッセイのタイトルが『六十一歳、免許をとって山暮らし』。勝手に親近感が増してこちらから読んでみました。
最初の章が「虫の章」、次が「雪の章」に「寒さの章」。山荘に暮らすデメリットから始まっているのがおもしろい。「自然に囲まれた素敵な暮らし」じゃないのが良い。
小淵沢のあたりは標高も高く(小淵沢駅が886m)、積雪はそれほどではなくても冬はかなり寒いはず。恵理子さんが住んでいる別荘地帯は住民も少なく、近くに大きなスーパーなどもなく駅に出るにも登り下りが結構大変なあたりだと思われます。
そんな山の中にわざわざなぜ住んでいるのか。
「そこで何してるんですか?」と問われ、「とくに何をしているわけではなく、ただ場所をかえて相変わらず暮らしている毎日なんです」と答える恵理子さん。
「どちらが本当の暮らしなのか。いや、本当の暮らしとはなんなのか。」
「モラトリアム」と言っているのもなんだかホッとしました。50代でもモラトリアムでいいのか。
「どこに引っ越しても最初の2年はアウェイ感がぬぐえない」というのも新参者には心強い。
富士見高原病院や松本などの名前にも親近感。
おそらく恵理子さんが雪掻きスコップを買ったホームセンターはここではないかとあたりをつけて私も行ってみたりしました(ストーカー⁉︎)
まえがきで免許を取得したら「ヒラノ、ライフが変わるぜ」と友人に言われたと書かれていて、2冊めのエッセイとともに、私もそれを期待したいです。


2023/11/15

『蕨ケ丘物語』

蕨ケ丘物語 (コバルト文庫)

『蕨ケ丘物語』
氷室冴子
コバルト文庫

図書館でやっていた古本市で見つけた拾い物。
氷室冴子、1984年の作品。
北海道の田舎町、蕨ヶ丘の名家、権藤家の姉妹たち、大奥様である小梅おばあちゃんの物語。
当時何度か読んでいるし、山内直実によるコミック版も読んでるので懐かしく再読しました。
「頭がピーマン」とか「蛍光芳香ペン」とか、ボーイフレンドの顔を「ひと昔前の寺尾聰」と評したり、時代だなあ。
氷室冴子ってこういう「田舎町の名家のお嬢様」みたいな世界観をつくるのがほんとにうまかったんだなとあらためて思う。一種のファンタジーだよね。
『クララ白書』を再読したときに妹とこの『蕨ヶ丘物語』の話も出て、「おばあちゃんが『舞踏会の手帖』をするのをよくおぼえている」と言ってたんだけど、今読んでもこの話がいちばんおもしろい。
あとがきで氷室冴子が
「小梅おばあちゃんなんて、あれは理想そのものだな。
あれはきっと、五十年後の私の姿じゃないかしらんなんて、ひとりで悦に入ってるんです。そう、思いません?」
と書いていて、ちょっとしんみりする。
巻末のコバルトシリーズ目録には田中雅美、久美沙織、新井素子ら当時のおなじみのメンバーのほか
佐藤愛子『青春はいじわる』
南英男『ペパーミント・ラブ』
片岡義男『こちらは雪だと彼女に伝えてくれ』
アーシュラ・K・ル・グイン『ふたり物語』
風見潤・編『海外ロマンチックSF傑作選 たんぽぽ娘』
などが並んでいてラインナップの豊富さにびっくりします。

2023/11/02

『人斬り以蔵』

人斬り以蔵 (新潮文庫)

『人斬り以蔵』
司馬遼太郎
新潮文庫

一ノ関に行くときに時代小説かつ短編集ということで選んでみました。
(一ノ関だけに『義経』というのも考えたけど上下巻だったので断念。)
『鬼謀の人』大村益次郎
『人斬り以蔵』岡田以蔵
『割って、城を』古田織部
『言い触らし団右衛門』塙直之
『美濃浪人』所郁太郎
『売ろう物語』後藤基次
戦国時代や幕末の有名無名の志士たちを描いた短編集。
私は日本史の中でも戦国時代、幕末は特に苦手なこともあり、岡田以蔵すら知りませんでしたが、人物造形や出来事などは司馬遼太郎が作り上げたものだと思われるので史実はあまり関係ない。
才覚がありながら時代のタイミングがあわず、歴史の中に消えていった人々をあえて選んでいるような気がします。
大村益次郎は靖国に銅像があるのでなんとなく日中日露戦争の頃の人のイメージでしたが戊辰戦争でしたね。
癖のある登場人物が多いなか、普通の人が歴史に立ち会ってしまった感のある『おお、大砲』がいちばんおもしろかったかな。