
『ティーパーティーの謎』
E.L.カニグズバーグ
小島希里 訳
金原瑞人/小島希里 訳
岩波少年文庫
カニングズバーグの『ティーパーティーの謎』。前から気になっていたこともありますが、これを選んだのはたまたま図書館に並んでいたから。
『クローディアの秘密』もめちゃくちゃおもしろかったけど、え、なにこれ、すごいおもしろいんですけど。
クイズ大会(正確には「博学大会」)にひとつひとつ解答していくたびに回想シーンが挟み込まれ、正解とその子の経験がリンクしているという『スラムドッグ$ミリオネア』的な構成(原作の『ぼくと1ルピーの神様』が『ティーパーティーの謎』の構成を踏襲したんじゃないかと思います)。
この構成と時系列に最初はちょっと混乱しますが、慣れてくると大会を勝ち上がっていく勢いにのって後半は一気読み。
1996年の作品なので岩波少年文庫のなかでは現代的。児童文学の主人公って元気で陽キャラで友達多かったりしがちですが、無口なイーサン、イギリス英語でていねいにしゃべるジュリアン、出てくる子どもたちが知性派で内気なのも良き。差別によるいじめや両親の離婚など、それぞれ悩みを抱えているんだけど、それを乗り越えていった先にクイズの答えがあるという。ナディアとカメの話はこれだけでひとつの物語ができそう。
と、私は大絶賛だったんですが、ネットの感想をチェックしたら訳文に対して苦言を呈している人の多いこと。たしかに「あわれ」とか言葉の選び方がちょっとと思うところはあったし、意味がわかりにくい部分はあったんですが、ストーリーのおもしろさにそこまで気にしませんでした。私の日本語感性なんてそんなもの。
で、調べたら2000年に小島希里訳版が出版されたあと、2005年に金原瑞人/小島希里共訳による改版が出ているんですね。5年で改版ってすごいなと思ったら、読者が岩波に希望を伝えても改正されなかったので、直接カニングズバーグに手紙を出し、それを読んだカニングズバーグ本人が岩波に対応を求めたという経緯らしいです。すごいな。
詳しくは「カニングズバーグをめぐる冒険」に掲載されています。
私が読んだのは小島希里版だったので、改版をあらためて借りてみました。図書館ってこういうとき便利。といっても共訳なので、あきらかに誤訳とか言葉が変とかでなければ、元の訳を基本的に残すという形みたいでした。
「カニングズバーグをめぐる冒険」で指摘されているところはほぼ指摘されているとおりに修正されているような。
わかりやすいところでは「実はね」というくりかえしが、ノアの口癖だとわかるように「事実─」となっていたり、「青緑色」がターコイズであることがわかるように「トルコ石のような青緑」となっていたり。
先生は、ニコっとなんかするつもりはなかったし、ハム・ナップもこんなふうに「ごめんなさい。」と言うつもりはなかったのに。
(旧版)
先生は心からニコっとしたわけではなかったし、ハムも心から「すみません。」と言ったわけではなかった。
(改版)
個人的にあれ?と思ったのはいじめっ子ハムに対するジョークのところ。
「豚小屋と六年生の違いは何?」
ジュリアンは、「わかりません。違いはなんなのですか?」ときいた。
「豚小屋では、ハムはただのケツの肉。」
(旧版)
「ハミルトンが肉屋に入るとなんになる?」
ジュリアンは、「わかりません。何になるのですか?」ときいた。
「ハムになる。」
(改版)
旧版の「豚小屋」とか「ケツの肉」もなんですが、改版になるとジョークとしても成り立たないので。
原文とあわせて読むとまた印象が違うと思いますが、だったら『ハリー・ポッター』のほうが改訳してほしいんだよな〜。
訳とは関係ないですが、ネットの感想に、「学校の宿題で明後日まで提出しなければいけないんですが「感謝祭はいつか」と「オリンスキー先生が、博学大会のメンバーを決めるまでにどのぐらいの時間を要したか」教えてくれませんか」というコメントがあって笑いました。二つめの問題はたしかにちょっとわかりにくいのですが、そもそも自分の知恵で問題を解決していく子どもたちの物語なのに、お前なにも読んでいないだろう。
旧版のほうになぜか『不思議の国のアリス』の栞がはさまっていました。これ意図的だったらなかなか素敵。