2025/02/12

『雪女 夏の日の夢』

雪女・夏の日の夢 (岩波少年文庫 563)

『雪女 夏の日の夢』
ラフカディオ・ハーン
脇 明子 訳
岩波少年文庫

「異類婚姻譚」について調べていたときに「異形の女房」の例として出てきた『雪女』。
そういえば小泉八雲、ラフカディオ・ハーンってちゃんと読んだことなかったかも。入門書としてこちらを読んでみました。
有名な『耳なし芳一』、『雪女』のほか、ハーンが再録した日本の不思議な物語12編とエッセイ4編を収録。
もととなる原話と比較したわけではないですが、物語はハーン独自の視点や語り口でリメイクされているのではと思われます。そもそも物語のセレクトからしてハーン独自のフィルターが入っているわけですし。
エッセイ『夏の日の夢』に『浦島太郎』、同じくエッセイ『神々の集う国の都』に『子育て幽霊』の話が出てきます。これらの物語にある「哀れみ」や「哀しさ」のようなものにハーンは強く惹かれていたようです。
『遠野物語』なんかもそうですが、日本の伝承物語ってどこか暗さとか悲しさを含んでますね。
『東洋の土をふんだ日』、『盆踊り』、『神々の集う国の都』、『夏の日の夢』。エッセイ4編は抄訳ですが、どれもとても美しい文章で日本の印象がつづられています。
ハーンがだいぶ盛っているところもあると思いますが、明治時代の日本はかくも美しかったのか。異国人の眼で見るからこそわかる美しさもあったのかと思います。
「日本の町の通りは漢字で飾られているから絵のように見える。これを英語で置き換えたところを想像するとゾッとする」といったような文章があるんですが、日本人は英語で書かれた看板を無意味にかっこいいと思ってしまうんだから笑ってしまいます。
2025年秋の朝ドラ『ばけばけ』は小泉セツが主人公だそうですが、ハーンに日本の物語を紹介した女性に興味がわいてきたので、ハーンのエッセイとともにちゃんと読んでみたいなと思います。


2025/02/11

『カザフ刺繍』

カザフ刺繍 中央アジア・遊牧民の手仕事 伝統の文様と作り方

『カザフ刺繍』
廣田千恵子、カブディル・アイナグル
誠文堂新光社

『大乙嫁語り展』のとき、ショップで販売されていて気になっていたのがこちら。

「中央アジア」とひとくくりにいっても広く、ここで紹介されているのは、モンゴル国バヤン・ウルギー県で暮らすカザフ人による伝統文様と刺繍技法です。

大きな木枠に布を貼って、かぎ針で刺していく刺繍技法は、自分で真似するにはレベルが高いですが、伝統文様や模様、モチーフの刺し方が掲載されているので、刺繍の心得がある人であればチャレンジできそう。

花、鳥といった文様のほか、羊、ラクダ、麦のモチーフがあるところが遊牧民族らしい。
「腎臓文様は多くの家畜を屠ることができる状態を想起させることから、家族に幸せをもたらすものとされる」というのもおもしろいです。

天幕型住居「キーズ・ウイ」の内部を覆う、壁掛け布「トゥス・キーズ」。
美しい布が何枚も飾られているのは圧巻ですが、家の中を美しく装飾する女性が「理想的なカザフの嫁」で、身の回りを飾ることができない女性は「仕事ができない」とみなされるとか。
カザフ人に生まれなくてよかったと思いつつ、これもひとつの文化ですね。

『乙嫁語り』でも刺繍の苦手なパリヤさんが嫁入り道具を作るのに苦労してましたね。(布仕度がおわらないと嫁に行けない。刺繍の出来で嫁として評価される。)

著者のひとりであるアイナグルさんは、1992年の社会主義体制の崩壊により、生きていくために自分でビジネスを始めるしかなくなり、カザフ刺繍の専門店をオープン。
女性たちの収入と伝統文化の存続のためにカザフ刺繍を伝える活動をしているということで、ここらへんにも刺繍素敵!だけではすまされない社会事情が現れています。

2025/01/18

『冬虫夏草』

冬虫夏草 

『冬虫夏草』
梨木香歩
新潮社

『家守綺譚』の続編。タイトルから勝手に冬にあうかと思って読み始めましたが、夏から秋にかけての物語でした。
友人・高堂の死の真相が次第にあきらかになる緊迫感がそこはかとなくただよっていた前作とは違い、ダァリヤの歌声が流れてきたり、ムジナが祭りにやってきたり、隣のおかみさんの柿の葉ずしが秋を急かしたり、あの世とこの世の堺が曖昧な日常がのんびりと綴られ、これはこれで楽しいと思って読んでいたら、最初の数章でのんびりとした日常が終わり、あとは愛犬ゴローを探す奇妙な旅へと変わります。
能登川駅、愛知川、永源寺、八風街道などの地名は検索すると出てくるので、綿貫の旅路は実際に歩けるものだと思います。
そこは綿貫さんなので河童の少年に会ったり、幽霊に頼みごとをされたりしながらイワナの夫婦の宿をめざします。
この目的のあるようなないような旅が長々と続くので、私的には前半ののんびりとした家守の日々の方が好みでした。
なんといってもゴローを探す旅なので、ゴローの噂や存在感はずっとあるものの、ゴローの不在が寂しい。高堂くんや隣のおかみさん、和尚、ダァリヤの出番ももっと欲しかったところ。
とはいっても、夏目漱石かというような流れるような古めかしい文体は美しく、読んでいて気持ちがいい。
氾濫の多い川沿いの街道だから神社や地蔵が多いという記述がありますが、都内の甲州街道を歩いていても庚申塔や地蔵やらに街道の歴史を感じるので、これはよくわかるなあと思いました。


◆関連書籍
 
家守綺譚
梨木香歩
新潮社

2025/01/06

『やかまし村はいつもにぎやか』

やかまし村はいつもにぎやか (岩波少年文庫 130)

『やかまし村はいつもにぎやか』
アストリッド・リンドグレーン
大塚 勇三 訳
岩波少年文庫

『やかまし村』シリーズ3作目。
1952年の作品。
冬に読んでしまったけれど、リーサとアンナが「春の場所」をもっているとか、「夏至の柱」を立てる話とか、サクランボ会社とか、ザリガニとりとか、おもに春から夏の出来事がつづられている。
あいかわらず大きな事件は起こらないけれど、「やかまし村は、いつでもたのしいんです。」
1章で観光にやってきた人が言う「やかまし村はたいくつで、つまらないかもしれませんね」に対する答えが、最終章の「やかまし村にすんでない人は、きのどくだとおもうわ」。
この全肯定よ!
解説で長谷川摂子(『めっきらもっきらどおんどん』の作者ですね)が書いているように、ザリガニとりのキャンプの場面では私も泣きそうになりました。
「真実、楽しかった、という思い出があってこそ、人生を肯定してしっかり生きていける」と長谷川摂子は書いていますが、この「真実、楽しかった思い出」が『やかまし村』にはあるから、楽しいのに泣きたくなるのかなあ。
すばらしい挿し絵はイロン・ヴィーグランド。訳者・大塚勇三によると、合本版の挿し絵がみごとだったのでそちらのを採用したとのこと。ふてくされてるリーサとか、かわいくない感じが絶妙にいいんだよな。


◆関連書籍

やかまし村の子どもたち (岩波少年文庫 128)
アストリッド・リンドグレーン
大塚勇三 訳
岩波少年文庫

やかまし村の春・夏・秋・冬 (岩波少年文庫 129)
『やかまし村の春・夏・秋・冬』
アストリッド・リンドグレーン
大塚勇三 訳
岩波少年文庫

2024/12/27

『地球再生型生活記』

地球再生型生活記 土を作り、いのちを巡らす、パーマカルチャーライフデザイン

『地球再生型生活記』
四井真治
アノニマ・スタジオ

夏の間に刈り取った雑草を庭の隅に置いておいたら、放置していただけなのに下の方は土になっていて自然のサステナブル力ってすばらしいと思いました。

ちゃんと雑草コンポストを作るべくネットを調べていたら紹介されていたのがこちら。
知らずに読みましたが、2007年より山梨県北杜市に移住し、家族で生活実験を続けているとのこと。

家から出る生ゴミだけでなく、コンポストトイレでおしっこを液肥として利用したり、排水を浄化するバイオジオフィルターで水辺を作ったり、持続可能な暮らしを実践されています。

生活実験をする元となった「パーマカルチャー」について、循環するいのちの仕組みについての著者の考えが延々と書かれているので、雑草コンポストの作り方を知りたかっただけの私にはなかなか壮大な話ではありましたが、「住んでいる人がただ生活するだけで環境が良くなるような仕組み」というのは昨今のSDGsよりずっと具体的で未来のあるデザインだなと思いました。

とりあえず、家でもできそうなところで、雑草コンポスト、雨水タンク、バイオジオフィルターあたりをめざしてみたいと思います。


2024/12/20

甲州街道を歩こう! 笹塚~千歳烏山

街道てくてく旅、続いてます。
前回、笹塚までだったのでここからスタート。

この辺はもともと地元で、終電逃したときは歩いて帰っていたりしたので、だいたいの土地勘はあります。15分間隔くらいで京王線の駅に着くので距離的にもたいして遠く感じない。


笹塚駅

国道20号の上に高速が通っていて、両側にビルが並んでいるので昼でも薄暗い印象ですが、銀杏並木なんてあったんですね。


代田橋駅近くにある玉川上水跡。
川を埋め立てた緑道とか暗渠とかいっぱいありそうで
これはこれでブラタモリができそう。


鳩の集会所になっていた大きなスペース。
Googleマップで確認したら団地(南和泉荘)跡でした。



水道局のタンク。


明治大学和泉校舎入口の近くにある「塩硝蔵地跡」の説明板。
江戸幕府の弾薬貯蔵庫。その後は陸軍の火薬庫だったそうです。

唐突に現れる「築地本願寺 和田堀廟所」。
なぜここに築地本願寺が?と思ったら、関東大震災のときに全焼して、
本堂は現地で再建、墓所を陸軍火薬庫跡だったこの地に移したそうです。

予想以上に広くてきれいな墓所。

樋口一葉だけ案内板がありました。

案内がないと見落としてしまいそうな小さなお墓。
まあ、樋口一葉の墓があまり立派なのも違うよな。

服部良一と笠置シヅ子の墓もここにあるそうで、『ブギウギ』コンビじゃん!と思いましたがパンフには笠置シヅ子の墓の案内しかなく、インフォメーションで聞けば教えてくれたと思いますが、私、『ブギウギ』見てないし、その程度の気持ちでお参りするのもとあきらめました。

昔、夜中に歩いて帰っていた頃は、なんかお墓があってこのへん不気味だなあと思っていたんですが、数十年後にその墓所を歩き回ることになるとは。

和田堀廟所の隣から真教寺、託法寺、善照寺、浄見寺、法照寺、栖岸院、永昌寺、龍泉寺、お寺がずらっと続きます。

真教寺

説明板によると、成り立ちはそれぞれ違うものの、「明暦3年(1657)いわゆる「振り袖火事」で全焼。築地本願寺の近くに移るが、大正12年9月、関東大震災により築地本願寺やその子院とともに全焼。現在地に移るが、昭和20年5月25日の空襲で全焼。その後、再建。」というのがどの寺にも書いてありました。
いわゆる「振り袖火事」って何?と思ったら、江戸城をはじめ、江戸の六割が焼けたという「明暦の大火」のことでした。六割、すげーな。
また、「昭和20年5月25日の空襲」というのも知らなかったのですが、「山の手大空襲」と呼ばれるもので、東京駅、皇居などもこの空襲で被災しています。

栖岸院

どのお寺も「一見さんお断り」というか、
観光気分で訪ねるようなところではなさそうなので入口だけ。
その中でPOPだった栖岸院の掲示板。
「超幸せな人生 超安心な人生」

永昌寺の庚申塔と地蔵菩薩立像。江戸時代に建立されたもの。

覚蔵寺

宗源寺
「境内の不動堂はかつて高台にあったため、「高井堂」と呼ばれ、
それが高井戸という地名の起源になったともいわれています。」
と看板にありました。

宗源寺のラカンマキ

なぞの「観賞魚の館」。
『冷たい熱帯魚』的なホラー感。

高井戸一里塚跡

看板の裏に「日本橋から16km」

ここから高速とわかれて空が開けてきます。

向こうは鎌倉街道なのか〜。

八幡山駅でちょっと休憩。
『ルポーゼすぎ』でホットケーキ食べました。

国道20号=甲州街道で、20号をずっと歩けばいいのかと考えていたんですが、
当然ながら後から整備されたバイパスなどもあるわけで。
右が国道20号、左が旧甲州街道。

長泉寺

お地蔵さんいっぱい並んでいて、たたずまいもなんか良かった。

旧甲州街道の看板

烏山下宿広場
今まで意識したことなかったんですが、
バス停や広場に「烏山下宿」と宿場の名残があるんですね。

旧甲州街道沿いだからなのか風情のある建物がちらほら。


千歳烏山駅
笹塚から約6.7km。もう少し歩けそうでしたが、暗くなってきたのと、
次回のアクセスを考えて本日はここで終了。

世田谷区や杉並区は江戸時代は田舎だったので、京都や鎌倉のような歴史的建造物などないと思っていましたが、意識して歩いてみると、寺が並ぶ道にも明暦の大火や関東大震災、東京大空襲などの歴史があるんですね。


2024/12/13

『メソポタミヤの殺人』

メソポタミヤの殺人〔新訳版〕 (クリスティー文庫 エルキュール・ポアロ)

『メソポタミヤの殺人〔新訳版〕』
アガサ・クリスティー
田村 義進 訳
ハヤカワ文庫

ポアロシリーズ12作目。1936年の作品。
テル・ヤリミア遺跡調査団宿舎の間取り図が出てきたところで、前に読んだことがあると気がつきました。そのあとで犯人も思い出しだので伏線とミスリードを確認しながら読んだのですが、これがなかなか楽しかった。
アガサ・クリスティーはやっぱり犯人がわかっててもおもしろいなあ。
遺跡発掘現場が舞台で、考古学者と再婚した美しきミセス・レイドナーが調査団たちに巻き起こす不協和音が事件の発端となるというのが、設定からして皮肉めいています。
アガサ・クリスティーが考古学者と再婚したのが1930年。とうぜん、彼の発掘調査に同行したこともあるでしょうし、その時に現場で敬われると同時に邪魔者扱いされたこともあったのかもしれません。
発掘現場である中東を美化していないところもいいです。
(15ページ)
でも、バグダッドの不潔さと混乱ぶりは信じられないくらい。『千夜一夜物語』から想像されるようなロマンチックなものなんてどこにもない。
(76ページ)
本当にがっかりだった。発掘現場は土と泥の山で、大理石もなければ、黄金もない。美しいといえるようなものは何もない。これなら、クリックルウッドにある叔母の家のほうが、まだ見栄えのする遺跡になるはず。
90年近く前の作品で、イギリスの上流階級の人々を中心とした登場人物といった違いはあるものの、ミセス・レイドナーをめぐる女性たちの嫉妬と羨望の視線は現代にもあるあるな感じで、こういうところがアガサ・クリスティーの普遍性だなと思います。
性格の悪さを隠そうとしないシーラが特に好き。
(221ページ)
「死んだひとの悪口を言っちゃいけないというけれど、それはちがうとわたしは思うの。事実はあくまで事実よ。言っちゃいけないのは、むしろ生きてるひとの悪口じゃないかしら。生きてるひとは傷つく。死んだひとは傷つかない。でも、死者がなした悪は死後も生きつづける。とかなんとか、シェークスピアも言ってるでしょ。」
クリスティーはいろんな出版社からいろんな訳が出てますが、どの訳でもいいなら、ハヤカワの旧装丁旧訳で満足なので、あえて新訳で読むというルールを自分に課していて、今回は2020年出版の新訳版を選んでいます。
旧訳と比較はできませんが、固有名詞が解説もなく結構でてきます。
「P・G・ウッドハウスの小説」とは美智子皇后が言及したことで日本でもちょっとブームになった『ジーヴス』シリーズあたりですね。
「セイリー・ギャンプ」はディケンズの『マーティン・チャズルウィット』に出てくる看護婦。wikiの訳ではセアラ・ギャンプ。
「イアーゴー」は有名だけどシェークスピアの『オセロ』の登場人物。
ミセス・レイドナーの本棚のタイトルも調べてみました。
『相対性理論序説』はベルグマン著。
『ヘスター・スタノップの生涯』
日本語訳だと法政大学出版の『オリエント漂泊
ヘスター・スタノップの生涯』が見つかりました。
『思想の達しえるかぎり』はバーナード・ショーの作品。
『リンダ・コンドン』も実在の小説のようです。
『クリュー列車』は日本語訳が見つからず。
どれもなかなか難しそうな本ですが、すらすらと説明しているポアロは読んだのか。
ミスター・エモットとの会話で『雪の女王』が出てきますが、カイ少年のことはおぼえていてもゲルダを忘れてるのが驚き。ゲルダ、主人公なんですけど!
(こういう視点で見ると雪の女王とカイ少年の関係って未成年誘拐みたいなもので結構ヤバい。)
(278ページ)
「子供のころ読んだ北欧の童話で、雪の女王とカイ少年が出てくる話があります。ミセス・レイドナーはその雪の女王です。いつもカイ少年を連れて歩いていました」
「ええ。ハンス・アンデルセンの童話ですな。たしか少女も出てきたはずです。ゲルダでしたっけ」
あと、「ヴァン・アルディン」は『青列車の秘密』に登場する大富豪「ヴァン・オールディン」のこと。
(137ページ)
「エルキュール・ポアロという人物をご存じでしょうか、博士」
「ええ、聞いたことはあります。ヴァン・アルディンという人物が高く評価していました。たしか私立探偵でしたね」
「人生は戦場なんです。ピクニックじゃない。」とか名言も多い。
(206ページ)
「わたしもよく冗談を言って笑います、マドモアゼル。でも、冗談ではすまないこともあります。わたしは仕事で多くのことを学んできました。そのなかでもっとも恐ろしいのは、殺人は癖になるということです」